坂口安吾「文学のふるさと」モラルの文脈

背景と目的：

坂口安吾の「文学のふるさと」（1941年）は、文学とモラルの関係を探求する目的で書かれたエッセイです。作者は、文学作品におけるモラルの有無を通じて、文学の根源を探ることを試みています。特に、シャルル・ペローの童話「赤頭巾」を例にとり、モラルが存在しない作品においても文学が成立するという矛盾を通じて、文学の真の「ふるさと」を見出そうとします。背景には、当時の日本文学界におけるモラルの議論があり、安吾はその中で独自の視点を提供しようとしています。

主要な発見：

安吾は、「赤頭巾」のようなモラルが欠如した物語に感じる「切ない悲しさ、美しさ」に注目します。モラルがないこと自体が一つのモラルであり、それは文学の始まりの場所、つまり「ふるさと」であるとします。この観点から、文学はモラルを超越したものであり、むしろモラルの欠如から新たな文学的価値が生まれると結論づけます。さらに、モラルがない経験は「絶対の孤独」として捉えられ、それが人が生きる上で不可避なものであると述べています。

方法論：

安吾は具体的な文学作品や作家のエピソードを用いながら、自身の主張を展開します。例えば、ペローの「赤頭巾」や芥川龍之介のエピソードを分析し、モラルがない状況に人々がどのように反応するかを探ります。また、他の文学評論家や作家の意見を引用し、それらと自身の考えを対比させることで、モラルと文学の関係を多角的に検証しています。

結論と意義：

安吾は、モラルがない状態を「ふるさと」とし、それが文学の出発点であると結論づけます。さらに、モラルがないという認識自体が新たなモラルであり、それを前提に文学を創作すべきだと主張します。この結論は、文学を通じて人間の根源的な孤独や存在の意味を探る試みとして意義深いものです。また、当時の社会的文脈において、モラルの再構築を模索する文学の在り方に新たな視点を提供しています。

今後の展望：

論文では、坂口安吾の主張をさらに深く掘り下げるため、当時の社会的文脈におけるモラルの多義性やその変遷を検討する必要性が示唆されています。また、他の文学作品や思想家の意見を参照しながら、モラルと文学の関係をより広範に探求することが求められています。さらに、戦時中の社会におけるモラルの変容やその影響を考察することで、現代における文学の役割やその意義を再評価することが重要とされます。