四川作家・沙汀研究 : 中国近現代農村社会を理解する手がかりとして

背景と目的：

本論文の背景には、四川省出身の作家である沙汀が日本ではほとんど知られておらず、中国現代文学研究においても彼の作品に対する言及が少ない現状があります。筆者は日中戦争から国共内戦期の四川省の農村社会を歴史学の観点から研究する中で、沙汀の作品がその歴史研究に有益であると考え、注目するようになりました。特に、筆者は1950年代以降の農村基層社会の変化に興味を持ち、それを同時代に体験した沙汀の作品から新たな手がかりを得ることを目的としています。

主要な発見：

本論文での主要な発見の一つは、沙汀が1940年代の四川農村社会を舞台に、郷長や保長などの基層行政の末端で活動する人物たちの葛藤と利害対立を生き生きと描いている点です。また、彼の作品『減租』において、国民政府の減租政策が農民にとってどのような負担をもたらしたかが描かれていることも重要な発見です。これにより、政策の実態を文学作品からも垣間見ることができるという新たな視点が提供されます。

方法論：

筆者は主に文献調査と作品分析を通じて研究を進めています。歴史学の観点から、沙汀の作品を日中戦争から国共内戦期の農村基層社会の実態と照らし合わせて分析することで、文学と歴史の交差点を探求しています。また、先行研究のレビューを通じて、沙汀の作品がどのように文学史の中で位置づけられてきたかを明らかにし、彼の作品が持つ社会的・歴史的な意義を再評価する試みを行っています。

結論と意義：

本論文の結論として、沙汀の作品が1940～50年代の農村基層社会の実態を描写する重要な資料となることが示されました。これにより、沙汀の作品は単なる文学作品としてだけでなく、当時の社会状況を理解するための貴重な歴史資料としても再評価されるべきであることが明らかになりました。特に、彼の作品が農民の生活や基層行政の実態をリアルに伝えている点は、歴史学と文学研究の双方にとって大きな意義を持つといえます。

今後の展望：

今後の研究展望として、沙汀の1949年以降の作品に焦点を当てる研究が重要であると考えています。これは、人民共和国成立後の農村基層社会の変化を文学作品を通じて理解するための新たなアプローチとなり得ます。また、沙汀の作品を通じて、当時の社会史的な視点をさらに掘り下げることで、歴史と文学の交差点をより深く理解することが期待されます。今後の研究では、沙汀がどのようにして農村社会の変化を描写し、その作品が持つ社会的・歴史的な意義を再評価することが求められます。