論文詳細
医歯学系
大学院医歯学総合研究科(医)
#学位論文
胚盤胞補完法とES細胞を用いたマウス生体内における甲状腺再生
- AI解説:
- 全摘甲状腺切除後などに生じる甲状腺機能低下症(hypothyroidism)は、通常、生涯にわたる経口の甲状腺ホルモン補充で管理される。この方法は概ね有効である一方、著者らは、生理的な内分泌の恒常性を実際に再現することの難しさを指摘し、過量補充(over-replacement)による臨床的に重要なリスクとして心血管イベントや骨粗鬆症を挙げている。代替案として、再生医療的アプローチでは甲状腺組織を作製して移植し、甲状腺ホルモン産生の回復を目指す。しかし、多能性幹細胞(pluripotent stem cells; PSCs)のin vitroでの誘導分化(directed in vitro differentiation)では、甲状腺ホルモン生合成に必要な遺伝子セット一式を発現する成熟した甲状腺濾胞細胞を得ることにしばしば失敗してきた。さらに、報告されている成功例でも、効率の低さ、前駆細胞の濃縮(enrichment)のための遺伝子標識や転写因子の強制発現への依存、移植後に未分化のPSCsが残存することによるリスクなどの障壁があった。胚盤胞補完(blastocyst complementation)によるin vivoでの臓器作製が進展していることを踏まえ、本論文は、甲状腺発生が障害された宿主を用い、マウス胚性幹細胞(embryonic stem cells; ESCs)からin vivoで甲状腺組織を作製できるかを検討する。著者らは、甲状腺器官形成における役割が先行研究で一貫していない(無形成〔agenesis〕対 重度低形成〔severe hypoplasia〕)fibroblast growth factor 10(Fgf10)に着目し、まずFgf10 Ex1mut/Ex3mutマウスの甲状腺表現型を特徴づけ、次に野生型ESCsによる補完が甲状腺の器官形成と機能を回復できるかを検証した。
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医歯学系
大学院医歯学総合研究科(医)
#学位論文
胚盤胞補完法とES細胞を用いたマウス生体内における甲状腺再生
AI解説
- 背景と目的:
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全摘甲状腺切除後などに生じる甲状腺機能低下症(hypothyroidism)は、通常、生涯にわたる経口の甲状腺ホルモン補充で管理される。この方法は概ね有効である一方、著者らは、生理的な内分泌の恒常性を実際に再現することの難しさを指摘し、過量補充(over-replacement)による臨床的に重要なリスクとして心血管イベントや骨粗鬆症を挙げている。代替案として、再生医療的アプローチでは甲状腺組織を作製して移植し、甲状腺ホルモン産生の回復を目指す。しかし、多能性幹細胞(pluripotent stem cells; PSCs)のin vitroでの誘導分化(directed in vitro differentiation)では、甲状腺ホルモン生合成に必要な遺伝子セット一式を発現する成熟した甲状腺濾胞細胞を得ることにしばしば失敗してきた。さらに、報告されている成功例でも、効率の低さ、前駆細胞の濃縮(enrichment)のための遺伝子標識や転写因子の強制発現への依存、移植後に未分化のPSCsが残存することによるリスクなどの障壁があった。胚盤胞補完(blastocyst complementation)によるin vivoでの臓器作製が進展していることを踏まえ、本論文は、甲状腺発生が障害された宿主を用い、マウス胚性幹細胞(embryonic stem cells; ESCs)からin vivoで甲状腺組織を作製できるかを検討する。著者らは、甲状腺器官形成における役割が先行研究で一貫していない(無形成〔agenesis〕対 重度低形成〔severe hypoplasia〕)fibroblast growth factor 10(Fgf10)に着目し、まずFgf10 Ex1mut/Ex3mutマウスの甲状腺表現型を特徴づけ、次に野生型ESCsによる補完が甲状腺の器官形成と機能を回復できるかを検証した。
- 主要な発見:
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新生仔のFgf10 Ex1mut/Ex3mutマウスでは、造影micro-CTで両側性の甲状腺遺残が認められ、組織学的には形態は正常だが著明に低形成の甲状腺が示され、Fgf10 wild/wild対照と比べて実質(parenchyma)の減少、分枝(branching)の低下、濾胞数の減少がみられた。免疫蛍光では、低形成腺において主要な甲状腺転写因子であるTTF1およびPax8を発現する細胞が少なかった。細胞あたりのタンパク質シグナルは「同程度に見える」ものの、thyroglobulin(Tg)とtri-iodothyronine(T3)の甲状腺内の総量は減少しており、組織量および濾胞成分の減少と整合した。増殖も低下しており、Ki-67陽性細胞が少なかった。一方で、calcitoninの発現は大きく低下していないように見え、著者らの見解(Fgf10は傍濾胞細胞の分化に中心的ではない)と一致した。
GFP発現マウスESCsを用いた胚盤胞補完後、新生仔のFgf10 Ex1mut/Ex3mutキメラでは、micro-CTで甲状腺が正常サイズ・正常形状を示し、組織学的にも野生型新生仔に匹敵する正常な構築が確認された。回復した甲状腺には強いGFPシグナルがみられ、ドナーESCsの寄与が大きいことが示された。成体のFgf10 Ex1mut/Ex3mutキメラでは、甲状腺濾胞が良好に組織化され、TTF1、FOXE1、Pax8を成体野生型甲状腺と同程度のレベルで発現していた。定量的には、TTF1陽性細胞のうち濾胞細胞の86.4 ± 7.9%がGFP陽性であり、濾胞上皮が主としてドナーESCs由来である一方、非濾胞性成分(例:傍濾胞細胞、血管、結合組織)では同様のドナー優位は示されなかった。機能指標も生理的な能力を支持した。すなわち、Tgは細胞質内に存在し濾胞腔内へ沈着し、T3はコロイド内に検出された。またELISAで測定した血漿T3およびT4濃度は、成体Fgf10 Ex1mut/Ex3mutキメラと成体Fgf10 wild/wildマウスで同程度であった。
- 方法論:
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本研究では、著者らが既報のCRISPR/Cas9で作製した変異マウス系統を用い、Fgf10 Ex1wild/mutとFgf10 Ex3wild/mutを交配して複合ヘテロ接合(compound heterozygous)のFgf10 Ex1mut/Ex3mutマウスを作製した。胚盤胞補完は、in vitro受精(Fgf10 Ex3 -/+の卵子×Fgf10 Ex1 -/+の精子)で胚を作製し、8細胞期〜桑実胚期の胚の囲卵腔(perivitelline space)にGFP発現RENKA C57BL/6NCrlCrljマウスESCsを5〜8個マイクロインジェクションした。短時間のin vitro培養後、胚を偽妊娠(pseudopregnant)のICR雌へ移植した。遺伝子型はSurveyor SystemおよびDNAシーケンスで確認した。新生仔の甲状腺の肉眼レベルの形態は、固定後にルゴールヨウ素(Lugol’s iodine)で染色し、造影micro-computed tomographyで評価した。組織レベルの構造と細胞構成は、パラフィン切片を用いたH&E染色および免疫蛍光で調べ、GFP、TTF1、FOXE1、Pax8、Tg、T3、calcitonin、vimentin、Ki-67などの系譜・機能マーカーを共焦点顕微鏡で観察した。濾胞系譜へのドナー寄与は、甲状腺あたりランダムに選んだ少なくとも3枚の画像(200×)において、TTF1陽性細胞のうちGFP陽性細胞を計数し、合計>1,500細胞で定量した。内分泌機能は、血清T3およびT4をELISAで測定(重複測定)して評価し、群間差は一元配置ANOVAとTukey–Kramerの事後比較で検定した(p < 0.05)。
- 結論と意義:
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著者らは、Fgf10 Ex1mut/Ex3mutマウスが、甲状腺発生が欠如しているのではなく重度に障害された宿主環境を提供すると結論づけている。すなわち、左右対称に形成されるが強く低形成の腺であり、この所見は、Fgf10–Fgfr2bシグナルが甲状腺の規定(specification)や初期発生に厳密に必須ではない一方で、分枝形態形成(branching morphogenesis)や臓器の拡大といった後期の成長過程には不可欠であるという見解を支持する。この状況下で、野生型マウスESCsによる胚盤胞補完は甲状腺の器官形成を回復し、成体キメラにおいて、組織学的に正常で生理学的にも機能する甲状腺を生じさせた。具体的には、循環中のT3およびT4が正常範囲で、甲状腺内におけるTgとT3の局在も適切であった。
意義の中心は、方法論および橋渡し(translational)上の主張にある。すなわち、胚盤胞補完によるin vivo作製は、PSCsから成熟した機能的な甲状腺濾胞組織を生み出し得て、in vitro分化のいくつかの限界(低効率、遺伝学的な濃縮戦略への依存、移植後に未分化PSCsが残存することによる腫瘍リスク)を回避できる可能性がある。同時に著者らは、作製された甲状腺がドナー細胞と宿主細胞のキメラ混合であり、ドナー優位は主に濾胞上皮に限られ、甲状腺関連の全系譜に及ぶものではない点を強調している。さらに実務上の制約として、成体の複合ヘテロ接合キメラ作製の効率が低いこと(既報では、638個の胚盤胞を移植して得られた新生仔キメラ76匹から、離乳した成体が5匹)を挙げ、甲状腺のキメラ率の程度は改善が必要な課題として提示されている。
- 今後の展望:
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本論文は、胚盤胞補完によるin vivo甲状腺作製を改善・拡張するための方向性をいくつか示している。第一に、キメラ率と低収率には狙いを定めた解決策が必要だとし、条件付きノックアウト(conditional knockout)戦略、または甲状腺初期発生に重要な別の宿主遺伝子標的(例:Nkx2-1、Pax8、Fgf2)を用いることで、甲状腺上皮系譜におけるドナー細胞のより強い占有(monopolization)を可能にし、細胞寄与の混在を減らせる可能性を提案している。関連する先例として、Nkx2-1ノックアウトマウスにおいて胚盤胞補完により肺および甲状腺の上皮系譜がほぼ完全にマウスESCs由来となったという最近の報告を引用している。第二に、本研究はマウス間(mouse-to-mouse)の補完であるが、齧歯類や家畜において、種間(inter-species)胚盤胞補完でPSC由来の甲状腺組織を作製できるかは「今後検討が必要」としている。第三に、ヒトPSCsを家畜に応用する場合の倫理・バイオセーフティ上の懸念として、現行の種間アプローチではドナー由来細胞が脳や生殖腺に寄与し得る点を挙げる。緩和策として、分化がコミットした幹/前駆細胞(committed stem/progenitor cells)を用いる、あるいは分化能を制限するよう遺伝子改変したPSCsを用いることを提案する一方、臨床応用はなお遠いとも述べている。最後に治療の観点から、移植に必ずしも臓器全体は不要であり、PSC由来の成熟濾胞細胞や濾胞組織を単離・ソーティングできれば十分である可能性を示し、そのための堅牢な精製法の開発が次の重要な段階だと示唆している。
- 背景と目的:
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甲状腺を全部切除したあとなどに起こる
は、ふつうは甲状腺ホルモンの薬を飲み続けて治療します。この治療は多くの場合うまくいきますが、体の中のホルモンの微妙なバランスを本来の形で再現するのは難しく、薬が多すぎると心臓や血管の病気、骨が弱くなることなどのリスクがあります。甲状腺機能低下症 ( 甲状腺ホルモンが不足して、体の代謝が落ちたり、だるさや寒がりなどが起こる状態です。甲状腺を手術で取ったあとにも起こり、治療ではホルモンを補うことが基本になります。)
そこで別の考え方として、甲状腺の組織そのものを作って移植し、体内で自然にホルモンを作れるようにする が考えられます。しかし、幹細胞から試験管の中で甲状腺の細胞を作ろうとしても、ホルモンを作れるほど「成熟した」細胞を安定して作るのは難しく、効率の低さや安全性の問題もありました。再生医療 ( 失われた組織や臓器を、細胞を使って作ったり回復させたりして治療する考え方です。薬で不足分を補うだけでなく、体が自分で機能を取り戻すことを目指します。)
本研究は、胚の段階で幹細胞を入れて体内で臓器を作らせる という方法を使い、甲状腺の発生がうまくいかないマウスの体内で、別のマウスの胚盤胞補完 ( 発生がうまくいかない胚に別の個体の幹細胞を入れ、足りない臓器や組織をその幹細胞で作らせる方法です。体内環境で臓器を作れる可能性がある一方、ドナーと宿主が混ざるキメラになる点が特徴です。) から甲状腺組織を作れるかを調べました。特に、甲状腺の成長に関わるとされる胚性幹細胞 ( 胚の初期から作られる、多能性を持つ幹細胞です。多くの細胞に分化でき、研究では臓器や組織を作る材料として使われます。) という遺伝子に注目し、Fgf10に異常があるマウスで甲状腺がどうなるか、そして胚性幹細胞で補えるかを検証しました。Fgf10 ( 発生の過程で細胞の増殖や形づくりを助けるシグナルに関わる因子です。臓器の枝分かれや成長に関係し、甲状腺の大きさや構造にも影響すると考えられます。)
- 主要な発見:
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に異常がある新生マウスでは、甲状腺は左右に残っていて形は大きく崩れていないものの、サイズが極端に小さい重度のFgf10 ( 発生の過程で細胞の増殖や形づくりを助けるシグナルに関わる因子です。臓器の枝分かれや成長に関係し、甲状腺の大きさや構造にも影響すると考えられます。) でした。内部の「甲状腺らしい部分」が少なく、枝分かれした構造や低形成 ( 臓器の形はできているが、成長が不十分で小さい状態のことです。完全に欠けるのとは違い、残っているが機能や量が不足しやすいのが特徴です。) の数も減っていました。甲状腺の発生に重要な濾胞 ( 甲状腺の中にある小さな袋状の構造です。中にはコロイドと呼ばれる物質があり、甲状腺ホルモンを作る過程で重要な場所になります。) (転写因子 ( 遺伝子のスイッチを入れたり切ったりして、細胞の性質や分化を決めるタンパク質です。発生や臓器形成で重要な役割を持ちます。) やTTF1 ( 甲状腺などの発生に重要な転写因子です。甲状腺の濾胞細胞ができる過程を示す指標として使われます。) )を出す細胞も少なく、甲状腺ホルモンを作る材料になるタンパク質(Tg)やホルモン(Pax8 ( 甲状腺の発生と機能に重要な転写因子です。TTF1と並び、甲状腺の細胞が正しく分化するために必要です。) )の甲状腺内の総量も減っていました。また、細胞の増殖も弱くなっていました。T3 ( 甲状腺ホルモンの一種で、体の代謝を調整する働きがあります。甲状腺がきちんと機能しているかを見る重要な指標です。)
一方で、 を作る細胞の指標は大きくは減っていないように見えました。カルシトニン ( 甲状腺の別の細胞(傍濾胞細胞)が作るホルモンで、主にカルシウムの調節に関係します。濾胞細胞とは由来や役割が異なります。)
次に、 で目印を付けたGFP ( 緑色に光るタンパク質で、細胞の目印としてよく使われます。GFPが光る細胞はドナー由来だと判断できます。) を胚性幹細胞 ( 胚の初期から作られる、多能性を持つ幹細胞です。多くの細胞に分化でき、研究では臓器や組織を作る材料として使われます。) で入れると、Fgf10に異常がある新生マウスでも甲状腺が正常に近い大きさと形ででき、組織の作りも正常に近くなりました。回復した甲状腺には強いGFPの信号が見られ、入れた胚性幹細胞が甲状腺づくりに大きく関わったことが示されました。胚盤胞補完 ( 発生がうまくいかない胚に別の個体の幹細胞を入れ、足りない臓器や組織をその幹細胞で作らせる方法です。体内環境で臓器を作れる可能性がある一方、ドナーと宿主が混ざるキメラになる点が特徴です。)
成体になった マウスでも、濾胞がきれいに整い、TTF1、キメラ ( 1つの個体の中に、別々の由来の細胞が混ざって存在する状態です。本研究では、甲状腺の細胞がドナー由来と宿主由来の両方から成り立ちました。) 、Pax8などの重要な遺伝子の働き方は野生型と同程度でした。濾胞細胞の多く(約86%)がGFP陽性で、濾胞上皮は主にドナーの胚性幹細胞由来でした。ただし、濾胞以外の細胞(血管や結合組織など)はドナーだけが多いという形ではありませんでした。FOXE1 ( 甲状腺の発生に関わる転写因子の1つです。甲状腺が正しく形づくられることに関係します。)
さらに、血液中のT3と の量は野生型マウスと同程度で、作られた甲状腺が実際にホルモンを作って機能していることが示されました。T4 ( 甲状腺ホルモンの一種で、体内でT3に変換されて働くことも多いホルモンです。血液検査で甲状腺機能を評価するときによく測定します。)
- 方法論:
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CRISPR/Cas9で作られた
遺伝子の変異マウス同士を交配し、Fgf10 Ex1mut/Ex3mutマウスを作りました。Fgf10 ( 発生の過程で細胞の増殖や形づくりを助けるシグナルに関わる因子です。臓器の枝分かれや成長に関係し、甲状腺の大きさや構造にも影響すると考えられます。) では、体外受精で作った胚(8細胞期〜桑実胚期)に、胚盤胞補完 ( 発生がうまくいかない胚に別の個体の幹細胞を入れ、足りない臓器や組織をその幹細胞で作らせる方法です。体内環境で臓器を作れる可能性がある一方、ドナーと宿主が混ざるキメラになる点が特徴です。) を出すマウスGFP ( 緑色に光るタンパク質で、細胞の目印としてよく使われます。GFPが光る細胞はドナー由来だと判断できます。) を5〜8個マイクロインジェクションで注入し、その胚を別の雌マウスに移植して育てました。胚性幹細胞 ( 胚の初期から作られる、多能性を持つ幹細胞です。多くの細胞に分化でき、研究では臓器や組織を作る材料として使われます。)
甲状腺の大きさや形は、ヨウ素で染めた後の で確認しました。組織の詳しい観察は、染色(H&E)やmicro-CT ( 小さな動物などを高い解像度で撮影できるCTです。臓器の形や大きさを立体的に確認できます。) で行い、GFPや免疫蛍光 ( 特定のタンパク質に結合する抗体を使い、蛍光でその場所を光らせて観察する方法です。細胞がどんな性質を持つか、どこで働いているかを調べられます。) 、TTF1 ( 甲状腺などの発生に重要な転写因子です。甲状腺の濾胞細胞ができる過程を示す指標として使われます。) 、Tg、Pax8 ( 甲状腺の発生と機能に重要な転写因子です。TTF1と並び、甲状腺の細胞が正しく分化するために必要です。) 、T3 ( 甲状腺ホルモンの一種で、体の代謝を調整する働きがあります。甲状腺がきちんと機能しているかを見る重要な指標です。) などの指標を使って細胞の種類や働きを調べました。血液中のT3とKi-67 ( 細胞が増殖しているかどうかを示す指標として使われるタンパク質です。Ki-67陽性細胞が多いほど、細胞分裂が活発だと判断できます。) はT4 ( 甲状腺ホルモンの一種で、体内でT3に変換されて働くことも多いホルモンです。血液検査で甲状腺機能を評価するときによく測定します。) で測定し、統計的に比較しました。ELISA ( 血液などの中にある特定の物質(ホルモンなど)を、抗体を使って量として測る検査方法です。体内でホルモンがどのくらい作られているかを客観的に評価できます。)
- 結論と意義:
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Ex1mut/Ex3mutマウスは、甲状腺が完全に「できない」のではなく、形は作られるものの成長が強く止まってしまうタイプの重度Fgf10 ( 発生の過程で細胞の増殖や形づくりを助けるシグナルに関わる因子です。臓器の枝分かれや成長に関係し、甲状腺の大きさや構造にも影響すると考えられます。) であると結論づけられました。これは、Fgf10のシグナルが甲状腺の最初の決定や立ち上げに絶対必要というより、枝分かれや臓器が大きくなる後半の成長過程に特に重要である可能性を支持します。低形成 ( 臓器の形はできているが、成長が不十分で小さい状態のことです。完全に欠けるのとは違い、残っているが機能や量が不足しやすいのが特徴です。)
そして、そのような宿主環境でも を使うと、胚盤胞補完 ( 発生がうまくいかない胚に別の個体の幹細胞を入れ、足りない臓器や組織をその幹細胞で作らせる方法です。体内環境で臓器を作れる可能性がある一方、ドナーと宿主が混ざるキメラになる点が特徴です。) から体内で甲状腺の形づくりを回復でき、成体で見ても組織として正常に近く、ホルモンもきちんと作る甲状腺ができることが示されました。胚性幹細胞 ( 胚の初期から作られる、多能性を持つ幹細胞です。多くの細胞に分化でき、研究では臓器や組織を作る材料として使われます。)
この研究の重要性は、試験管の中で細胞を分化させる方法が抱えていた問題(効率が低い、遺伝子操作で選別が必要になりやすい、未分化細胞が混ざると腫瘍の心配がある)を、体内で臓器を作る方法が一部避けられるかもしれない点にあります。
一方で、できた甲状腺はドナー細胞だけでできるわけではなく、宿主細胞も混ざる「 」になること、また成体キメラを得る効率が低いことが課題として示されました。キメラ ( 1つの個体の中に、別々の由来の細胞が混ざって存在する状態です。本研究では、甲状腺の細胞がドナー由来と宿主由来の両方から成り立ちました。)
- 今後の展望:
-
今後は、ドナー細胞がより多く甲状腺の上皮を占めるようにする工夫や、成体まで育つ
の作製効率を上げる工夫が必要だとされています。たとえば、キメラ ( 1つの個体の中に、別々の由来の細胞が混ざって存在する状態です。本研究では、甲状腺の細胞がドナー由来と宿主由来の両方から成り立ちました。) を使う方法や、甲状腺の初期発生に強く関わる別の遺伝子(Nkx2-1や条件付きノックアウト ( 特定の細胞や時期だけで遺伝子を働かなくする遺伝子改変の方法です。全身で止めると致死になる遺伝子でも、狙った場所だけで効果を調べたり、臓器作製に利用したりできます。) など)を宿主側で標的にして、ドナー細胞が入りやすい環境を作る案が挙げられています。Pax8 ( 甲状腺の発生と機能に重要な転写因子です。TTF1と並び、甲状腺の細胞が正しく分化するために必要です。)
また、将来的に種の違う動物間で ができるか、さらにヒトの細胞を家畜に使うときに脳や生殖細胞にドナー細胞が混ざる可能性など、倫理面・安全面の課題も議論されています。治療としては臓器全体を作らなくてもよく、成熟した胚盤胞補完 ( 発生がうまくいかない胚に別の個体の幹細胞を入れ、足りない臓器や組織をその幹細胞で作らせる方法です。体内環境で臓器を作れる可能性がある一方、ドナーと宿主が混ざるキメラになる点が特徴です。) 細胞や濾胞組織だけを安全に取り出して使えるようにする「確実な精製方法」の開発が重要になると示されています。濾胞 ( 甲状腺の中にある小さな袋状の構造です。中にはコロイドと呼ばれる物質があり、甲状腺ホルモンを作る過程で重要な場所になります。)
- 何のために?:
-
のどの前には、
という甲状腺 ( のどの前にある体の中の部分で、体を元気にするホルモンを作るはたらきがあります甲状腺 を全部取るとホルモンが足りなくなるので大事です) があります。器官 ( 体の中で決まったしごとをするまとまりです甲状腺 も器官 の一つで、働 きが悪いと体全体に影響 します)
ここは、体を元気にする を作ります。ホルモン ( 体の中で作られて血にのって運ばれ、体の調子や成長 を整える物質 です 足りないと体がうまく動かなくなるため重要 です)
甲状腺 を全部取ると、ホルモンが足りません。
そのときは、薬を毎日飲んで治 します。
でも、薬の量 をぴったりにするのは大変 です。
多すぎると、体に負担 が出ることもあります。
そこで、甲状腺 そのものを作る方法 を考えます。
体の中で、自然 に作れたら安心だからです。
けれど、 で作るのはむずかしいです。試験管 ( 体の外で細胞 や体の材料 をあつかうための道具で、実験 でよく使います 体の外で器官 を作ろうとする話で出てくる大事な言葉です)
うまく育たず、安全も心配でした。
この研究は、別 の作り方を試 しました。
赤ちゃんの芽 に、特別 な を入れます。細胞 ( 体を作るいちばん小さな単位 で、集まって器官 になります細胞 を入れて器官 を育てる方法 の中心になる言葉です)
すると体の中で、器官 が育つことがあります。
この方法 で、甲状腺 が作れるか調べました。
また、 というFgf10 ( 甲状腺 などの成長 に関係 すると考えられている遺伝子 の名前です これに問題があると甲状腺 が小さくなるため研究のポイントです) も調べました。遺伝子 ( 体の作り方やはたらき方の情報 を持つものです どの遺伝子 が器官 の成長 に関係 するか調べるため重要 です)
これは甲状腺 の成長 に関係 すると考えます。
- 何が分かったの?:
-
に問題がある子マウスがいました。Fgf10 ( 甲状腺 などの成長 に関係 すると考えられている遺伝子 の名前です これに問題があると甲状腺 が小さくなるため研究のポイントです)
はありますが、とても小さかったです。甲状腺 ( のどの前にある体の中の部分で、体を元気にするホルモンを作るはたらきがあります甲状腺 を全部取るとホルモンが足りなくなるので大事です)
中のつくりも、少し足りない所がありました。
を作る力も、弱くなっていました。ホルモン ( 体の中で作られて血にのって運ばれ、体の調子や成長 を整える物質 です 足りないと体がうまく動かなくなるため重要 です)
ただ、別 の種類 の は細胞 ( 体を作るいちばん小さな単位 で、集まって器官 になります細胞 を入れて器官 を育てる方法 の中心になる言葉です) 減 らないようでした。
次に、 を赤ちゃんに入れました。目印 つきの細胞 ( 入れた細胞 がどこに行って何をしているか分かるようにしるしを付 けた細胞 です 入れた細胞 が本当に働 いたか確 かめるために必要 です)
すると、小さい甲状腺 が大きく育ちました。
形や中のつくりも、元に近くなりました。
目印 が強く見え、入れた細胞 が働 きました。
大人になっても、甲状腺 は整っていました。
血の中のホルモン量 も、普通 と同じでした。
作った甲状腺 が、ちゃんと動くと分かりました。
- どうやったの?:
-
まず、
に問題があるマウスを作りました。Fgf10 ( 甲状腺 などの成長 に関係 すると考えられている遺伝子 の名前です これに問題があると甲状腺 が小さくなるため研究のポイントです)
つぎに、赤ちゃんの芽 を体の外で作りました。
そこへ、 を少し入れました。目印 つきの細胞 ( 入れた細胞 がどこに行って何をしているか分かるようにしるしを付 けた細胞 です 入れた細胞 が本当に働 いたか確 かめるために必要 です)
それを、別 の母マウスに戻 して育てました。
の大きさは、甲状腺 ( のどの前にある体の中の部分で、体を元気にするホルモンを作るはたらきがあります甲状腺 を全部取るとホルモンが足りなくなるので大事です) 特別 な写真で見ました。
中のつくりは、色をつけて細かく見ました。
どの が細胞 ( 体を作るいちばん小さな単位 で、集まって器官 になります細胞 を入れて器官 を育てる方法 の中心になる言葉です) 働 くかも、目印 で調べました。
血の は、血をとってホルモン ( 体の中で作られて血にのって運ばれ、体の調子や成長 を整える物質 です 足りないと体がうまく動かなくなるため重要 です) 測 りました。
- 研究のまとめ:
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に問題があると、Fgf10 ( 甲状腺 などの成長 に関係 すると考えられている遺伝子 の名前です これに問題があると甲状腺 が小さくなるため研究のポイントです) は育ちません。甲状腺 ( のどの前にある体の中の部分で、体を元気にするホルモンを作るはたらきがあります甲状腺 を全部取るとホルモンが足りなくなるので大事です)
でも、最初 から無 いわけではありません。
成長 する後半で、止まりやすいと考えます。
そして、 を入れる細胞 ( 体を作るいちばん小さな単位 で、集まって器官 になります細胞 を入れて器官 を育てる方法 の中心になる言葉です) 方法 で回復 できました。
大人になっても、 を作れていました。ホルモン ( 体の中で作られて血にのって運ばれ、体の調子や成長 を整える物質 です 足りないと体がうまく動かなくなるため重要 です)
これは、 で作るより安心な点があります。試験管 ( 体の外で細胞 や体の材料 をあつかうための道具で、実験 でよく使います 体の外で器官 を作ろうとする話で出てくる大事な言葉です)
ただし、入れた細胞 だけでは作れません。
もとの体の細胞 もまざり、まじり合いになります。
また、大人まで育つ数が少ないのも課題 です。
- これからどうする?:
-
もっと入れた
が細胞 ( 体を作るいちばん小さな単位 で、集まって器官 になります細胞 を入れて器官 を育てる方法 の中心になる言葉です) 増 える工夫 が必要 です。
大人まで育つ確率 を上げる工夫 も大切です。
そのために、別 の をねらう遺伝子 ( 体の作り方やはたらき方の情報 を持つものです どの遺伝子 が器官 の成長 に関係 するか調べるため重要 です) 案 があります。
また、ちがう動物でできるかも話し合います。
人の細胞 を使うときの安全も考えます。
脳 や赤ちゃんを作る細胞 に、入らないか心配です。
治療 では、 全部がいらないかもしれません。器官 ( 体の中で決まったしごとをするまとまりです甲状腺 も器官 の一つで、働 きが悪いと体全体に影響 します)
を作る部分だけ、安全に取り出したいです。ホルモン ( 体の中で作られて血にのって運ばれ、体の調子や成長 を整える物質 です 足りないと体がうまく動かなくなるため重要 です)
そのための、まちがいなく分ける方法 が必要 です。
- 著者名:
- 冉 慶松
- 新潟大学学術リポジトリリンク:
- http://hdl.handle.net/10191/0002000286
