光電子移動酸素反応を活用するスピロインダン-1,2-ジオキソラン類の合成と抗マラリア活性

背景と目的：

本研究の背景には、可視光を吸収する増感剤を用いた新規光化学反応の開発と実用化がある。特に、ピリリウム塩を増感剤とする光電子移動反応に焦点を当てており、薬理活性を持つ抗マラリア活性化合物の開発を目指している。これまでの研究で、双環式環状過酸化物が高い抗マラリア活性と選択毒性比を示すことが明らかになっており、本研究では、同様の特性を持つ新たな単環式1,2-ジオキソラン類の開発を行うことを目的としている。

主要な発見：

本研究で得られた主要な発見は、スピロインダン側鎖を導入した1,2-ジオキソラン類が高い抗マラリア活性を示すことである。具体的には、1,2-ジオキソラン11a-cが75-500 nMという高い抗マラリア活性を持ち、選択毒性比も13-81と良好な数値を示した。このことから、これらの化合物が抗マラリア活性な単環式環状過酸化物のリード化合物として有望であることが示された。

方法論：

本研究では、まず市販の1-インダノン誘導体を出発原料としてヒドラジンとの反応によって1-インダノンヒドラゾンを合成し、酸化銀を用いてジアゾメタンを生成。その後、1,3-双極子付加反応と熱分解によってシクロプロパンを合成した。次に、光電子移動反応を経由する酸素化反応を行い、トリフェニルピリリウムテトラフルオロボレート（TPPBF4）を増感剤として使用した。また、抗マラリア活性と細胞毒性の評価を通じて、1,2-ジオキソランの有効性を検証した。

結論と意義：

本研究の結果、スピロインダンを側鎖に持つ1,2-ジオキソランが高い抗マラリア活性を持つことが明らかになり、その活性がヘム鉄（Fe(II)）との反応によって生成するアルキルラジカル種に起因することが示された。これにより、新たな抗マラリア薬の設計において、単純な構造で高い活性を持つ化合物を創出するための有力な方向性が示された。

今後の展望：

今後の研究では、1,2-ジオキソラン類の構造修飾を通じてさらに高い抗マラリア活性と選択毒性を持つ化合物の開発を目指す。また、本研究で得られた知見を基に、他の薬理活性を持つ環状過酸化物の設計や合成方法の確立を進める予定である。さらに、実用化に向けた大規模な合成プロセスの最適化や、動物モデルを用いた薬効評価も視野に入れている。これにより、将来的には新規な抗マラリア薬の開発が期待される。