個性正常咬合者と骨格性下顎前突症患者の嚥下時舌圧発現様相の比較検討

背景と目的：

口輪筋や舌の機能は、歯列弓形態および成長発育と密接に関連しており、矯正治療における治療方針や予後を考慮する上で不可欠です。特に骨格性下顎前突症患者と低位舌との関連性が高いと考えられており、これまで安静時における舌位の検討が行われてきました。本研究では、骨格性下顎前突症患者における嚥下時の舌圧発現様相を記録分析し、その機能的特徴を健常者と比較検討することを目的としています。

主要な発見：

本研究の結果、骨格性下顎前突症患者の舌圧波形は健常者と比較して全体的に低く、舌圧消失までの時間が延長していることが明らかになりました。また、舌圧発現順序は健常者と同様ですが、特定の計測部位において発現時刻が早く、持続時間が長い傾向が見られました。さらに、舌圧のピーク値も健常者より低く、舌圧波形の単峰性が少ないことが示されました。

方法論：

対象は、外科的矯正治療が必要と診断された骨格性下顎前突症患者10名（女性、平均20歳2か月）と、対照群として正常咬合者10名（女性、平均21歳7か月）です。T字型の舌圧センサシートを使用し、嚥下時の舌圧を記録しました。舌圧波形から舌圧発現時刻、舌圧ピーク時刻、舌圧消失時刻、舌圧ピーク値、舌圧持続時間を評価し、嚥下時間を定義して分析しました。

結論と意義：

今回の研究により、骨格性下顎前突症患者の嚥下時舌運動パターンは健常者と異なり、舌圧が全体的に低く、舌圧持続時間が延長していることが明らかになりました。この結果から、骨格性下顎前突症患者では舌が嚥下時に適切な圧を口蓋にかけられず、食塊の移動に時間がかかるため舌圧持続時間が延長することが示唆されます。これにより、矯正治療の計画や予後の予測において、舌の機能的特性を考慮する重要性が示されました。

今後の展望：

今回の研究結果を踏まえ、今後の研究ではさらに多くの被験者を対象とし、より詳細な舌運動パターンの解析を行うことが求められます。また、実際の矯正治療の過程で舌の機能的変化を追跡し、その影響を評価することが重要です。さらに、治療後の舌運動パターンの改善がどの程度見られるかを検討することで、最適な治療方針を確立する手助けとなるでしょう。