ホーム，スイートホーム : 口腔粘膜ティッシュエンジニアリングの展望

背景と目的：

再生医療はティッシュエンジニアリングと幹細胞生物学に基づいており、これらの技術の進歩により、表皮、角膜、口腔粘膜などの上皮細胞シートを利用した治療法が発展してきた。しかし、細胞シートの自己組織化過程や上皮幹細胞の動態など、まだ多くの不明な点が残されている。筆者は20年間にわたり口腔粘膜ティッシュエンジニアリングに関与しており、この論文では上皮再生に関する知見を総括し、より高度な再生医療を目指すための基盤を築くことを目的としている。

主要な発見：

筆者の研究チームは、自家口腔粘膜上皮細胞を使用したEVPOME（ex vivo produced oral mucosa equivalent）を開発し、これが口腔粘膜の再建材料として有望であることを明らかにした。EVPOMEは特定の足場材を使用して作成され、臨床応用においても良好な創傷治癒効果が確認された。また、移植後に細胞が自己組織化するのではなく、成長因子の供給源として機能することが示唆され、他家細胞の利用も可能であることが示された。

方法論：

EVPOMEの作成にはAlloDermⓇという無細胞性ヒト新鮮屍体真皮を足場材として使用し、自家口腔粘膜上皮細胞を播種して培養する方法が用いられた。さらに、ティラピアのうろこコラーゲンや海産物由来のバイオマテリアルを利用した新規足場材の開発も行われた。これにより、細胞の生着率や創傷治癒効果の向上が試みられた。

結論と意義：

EVPOMEの開発と臨床応用により、口腔粘膜の再生医療が大きく進展した。特に、成長因子の供給源としての役割が確認され、他家細胞の利用も視野に入れることが可能となった。この研究は、口腔粘膜再生医療の新たな方向性を示し、他の組織再生にも応用できる可能性がある。

今後の展望：

筆者らは、より高度で機能的な培養口腔粘膜を作成するために、物理的微小環境の模倣や幹細胞ニッチの再現を目指している。また、新規足場材の開発に向けて、医歯工連携の強化が求められている。これにより、再生医療の質をさらに向上させ、より効果的な治療法を提供することが期待される。具体的には、国産で安全かつ安価な足場材の開発や、移植後の細胞の生着メカニズムの解明が今後の研究課題として挙げられる。