論文詳細
医歯学系
大学院医歯学総合研究科(医)
#学位論文
新規プロスタグランジンI2アゴニストであるONO-1301は非アルコール性脂肪性肝炎モデルマウスにおいて肝臓の炎症と線維化を改善する
- AI解説:
- 非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease: NAFLD)および非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis: NASH)は、慢性肝疾患や肝硬変の主要な原因であり、今後その発症率は上昇すると見込まれている。主な対策として生活習慣の改善が重視される一方で、著者らは、肝臓の炎症や線維化の進行を予防または抑制するためには薬物療法の戦略も必要だと主張している。こうした治療法を前臨床で評価するには、ヒトにおける主要な特徴(肥満、インスリン抵抗性、脂肪肝、進行性の線維化障害)を再現する動物モデルが求められる。そこで本研究では、Western diet(WD)を与えたmelanocortin 4 receptor欠損(Mc4r-KO)マウスを用いる。このモデルは、NASH様の炎症と線維化を呈し、時間の経過とともに肝細胞癌も形成し得る。論文では、化学的に安定で長時間作用型のprostaglandin I2(PGI2)ミメティックであるONO-1301を検討する。ONO-1301は主としてprostacyclin receptor(IP)作動薬として作用し、同時にthromboxane A2(TXA2)synthaseを阻害する。prostaglandinシグナルが肝障害からの防御に寄与し得ること、またONO-1301が組織修復に関わるメディエーターを誘導し得ることが既報であることを踏まえ、本研究の目的は、ONO-1301がin vivoでNASH病理を改善するかを検証し、さらにマクロファージ、肝星細胞(hepatic stellate cells: HSCs)、内皮細胞に対する機序的影響を探索することである。
AI解説を見る
医歯学系
大学院医歯学総合研究科(医)
#学位論文
新規プロスタグランジンI2アゴニストであるONO-1301は非アルコール性脂肪性肝炎モデルマウスにおいて肝臓の炎症と線維化を改善する
AI解説
- 背景と目的:
-
非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease: NAFLD)および非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis: NASH)は、慢性肝疾患や肝硬変の主要な原因であり、今後その発症率は上昇すると見込まれている。主な対策として生活習慣の改善が重視される一方で、著者らは、肝臓の炎症や線維化の進行を予防または抑制するためには薬物療法の戦略も必要だと主張している。こうした治療法を前臨床で評価するには、ヒトにおける主要な特徴(肥満、インスリン抵抗性、脂肪肝、進行性の線維化障害)を再現する動物モデルが求められる。そこで本研究では、Western diet(WD)を与えたmelanocortin 4 receptor欠損(Mc4r-KO)マウスを用いる。このモデルは、NASH様の炎症と線維化を呈し、時間の経過とともに肝細胞癌も形成し得る。論文では、化学的に安定で長時間作用型のprostaglandin I2(PGI2)ミメティックであるONO-1301を検討する。ONO-1301は主としてprostacyclin receptor(IP)作動薬として作用し、同時にthromboxane A2(TXA2)synthaseを阻害する。prostaglandinシグナルが肝障害からの防御に寄与し得ること、またONO-1301が組織修復に関わるメディエーターを誘導し得ることが既報であることを踏まえ、本研究の目的は、ONO-1301がin vivoでNASH病理を改善するかを検証し、さらにマクロファージ、肝星細胞(hepatic stellate cells: HSCs)、内皮細胞に対する機序的影響を探索することである。
- 主要な発見:
-
食餌に混ぜて投与したONO-1301は、Mc4r-KOのNASHモデルマウスにおいて、肝障害および線維化の生化学的・組織学的指標を改善した。WD対照と比較して、ONO-1301は血清ALT(例:410 ± 136.8 IU/L vs 226.3 ± 82.7 IU/L; p = 0.0020)、ALP(643.4 ± 190.5 IU/L vs 333.7 ± 135.5 IU/L; p = 0.0005)、総コレステロール(335.7 ± 33.9 mg/dL vs 274.8 ± 47.1 mg/dL; p = 0.0021)、肝重量/体重比(10.17 ± 1.46 g vs 8.63 ± 1.16 g; p = 0.0126)を低下させた。線維化は、Sirius Red陽性面積(3.10% ± 2.59% vs 1.12% ± 1.01%; p < 0.0001)およびhydroxyproline(5.61 ± 1.15 nmol/mg vs 4.71 ± 0.86 nmol/mg; p = 0.0008)により低下が示された。ONO-1301は肝のcrown-like structures(hCLS)も減少させ、脂質を蓄積した肝細胞の周囲へのマクロファージ集積の低下と整合した所見であった。また、肝cAMP濃度は増加傾向を示した。治療効果は、NASH成立後にONO-1301を投与した場合(mid-ONO:WD 20週間後にONO-1301を8週間投与)と、WD開始時から長期投与した場合(long-ONO)の双方で観察され、long-ONO条件では脂質関連の血清マーカーにより広範な改善がみられた。重要な点として、肝腫瘍の発生はONO-1301曝露が長いほど低く(Ctl: 6/10, 60.0%; mid-ONO: 1/8, 12.5%; long-ONO: 0/6, 0.0%)、腫瘍発生が抑えられた。機序面では、ONO-1301はLPS誘導性の炎症性マクロファージ遺伝子発現(Mcp1, Tnfa, Inos)を抑制し、マクロファージのcAMPを上昇させた。さらに、HSCの活性化マーカー(Acta2, Col1a1, Col3a1)を抑制しつつ、静止状態に関連するマーカーHhipを増加させ、HSCにおけるVegfを上方制御した。HUVECsでは、ONO-1301はHgfおよびVegfのmRNAを増加させ(ただしSdf1は増加せず)、cAMPも上昇させた。
- 方法論:
-
in vivo実験では、Mc4r-KOマウス(C57BL/6 J背景)に通常食(ND)を8週間与えた後、WDに切り替えてNASH様病態を誘導した。ONO-1301は0.01%(w/w)となるよう粉末をWDに混合して経口投与した。ONO-1301を20週間投与したマウスでは、液体クロマトグラフィー質量分析により測定した血漿ONO-1301濃度は19.3 ± 6.1 ng/mLであった。投与スケジュールは複数検討し、WD継続の対照、28週間のWD期間のうち最終8週間のみONO-1301を追加する「mid-ONO」、28週間のWD期間を通してONO-1301を投与する「long-ONO」を設定した。評価項目は、血清生化学(ALT, AST, Bil, ALB, TG, T-cho;WD開始後20週および/または28週に、非絶食下で評価)、肝重量/体重比、Sirius Red染色による線維化定量(ImageJによる面積測定;各マウスにつき×200でランダムに20視野を抽出)、hydroxyproline assayによるコラーゲン量(nmol/mg組織、570 nmの吸光度)であった。マクロファージ浸潤パターンはF4/80免疫組織化学により評価し、hCLSを定量した(×200で≥10視野、数/mm²として表示)。シグナル評価として、肝組織cAMPをELISAで測定し、肝重量で正規化した。機序解析のin vitro実験は以下を含んだ。(i) 骨髄由来マクロファージに25 ng/mLのLPSを与え、0.01 μMのONO-1301の有無で刺激した後、炎症性および抗炎症性マーカーをreal-time PCRで測定し、30分後にcAMPを測定。(ii) マウス一次HSCを消化法および11% HistoDenz分画で単離し、collagen I上で0.1 μMのONO-1301とともに培養し、72時間後に活性化/静止マーカーおよび増殖因子をreal-time PCRで解析。(iii) HUVECsに0.1 μMのONO-1301を72時間投与し、Sdf1, Hgf, Vegfをreal-time PCRで測定し、併せてcAMPを測定した。遺伝子発現はGapdhで正規化し、ΔΔCt法を用いた。統計解析はWelchのt検定またはWelchの一元配置ANOVAを用い、有意水準はp < 0.05とした。
- 結論と意義:
-
著者らは、ONO-1301が、ヒトNASHの主要特徴を再現する食餌誘導性Mc4r-KOマウスモデルにおいて、肝炎症を軽減し、線維化を抑制すると結論づけている。in vivoでのトランスアミナーゼの改善、線維化指標(Sirius Red陽性面積およびhydroxyproline)の改善、hCLSの減少、腫瘍発生率の低下を、確立したNASHを含む異なる病期にわたる広い治療可能性を示す証拠として解釈している。機序として著者らは、ONO-1301がIP受容体作動とcAMP経路活性化に整合する「多方向性」の作用を示すと主張する。すなわち、マクロファージの炎症反応を抑え、HSCの活性化を阻害して(その結果としてコラーゲン関連遺伝子発現を制限し)、組織修復に関連する増殖因子の発現を誘導する(HSCではVEGF、内皮細胞ではHGFとVEGF)というものである。さらに本研究は、ONO-1301のTXA2 synthase阻害もin vivoで有益である可能性があると位置づけ、その根拠の一部として、活性化Kupffer細胞由来のTXA2が門脈圧と関連することを示した著者ら引用の先行研究を挙げている。臨床的意義を強調しつつも、ONO-1301は当初抗血小板薬として開発され、第I相試験で有害事象(下痢、頭痛)がみられたため、投与量やデリバリー戦略への関心が動機づけられるとしている。総合的に著者らは、抗炎症作用、抗線維化作用、修復関連因子誘導作用を併せ持つ点から、ONO-1301をNASHを含む肝疾患の有望候補として位置づけている。
- 今後の展望:
-
本論文は、今後の方向性をいくつか示すと同時に、今後の研究を規定する限界も強調している。第一に、Mc4r-KOモデルでの結果は強いものの、このモデルはヒトNASHを完全には再現せず、病態特徴の発現に長期の飼育を要するため、追加のNASHモデルでONO-1301を検証することが重要である。第二に、機序検討の細胞実験では、骨髄由来マクロファージ、年齢の高い野生型雌マウス由来のHSC、ならびにHUVECsを用いており、NASH肝から直接得たマクロファージ、HSC、類洞内皮細胞ではない。著者らは、NASH肝の常在細胞集団を用いた追試により、疾患特異的な細胞挙動をより適切に反映できることを示唆している。第三に、ONO-1301から派生した薬剤工学的アプローチ(PLGAベースの徐放製剤ONO-1301SR、標的送達を意図したONO-1301 nanospheres(ONONS)など)が進行中であり、これらはヒト試験でみられた有害事象を軽減したと報告され、他の動物疾患モデルでも有益性が示されているという。著者らは、このようなデリバリー上の革新が、ONO-1301の再生促進作用および抗線維化作用を、より安全で有効な治療戦略として橋渡しするうえで重要だとしている。加えて、NASHは心臓、腎臓、肺の疾患と併存することが多いため、多臓器にわたる「組織修復」活性をもつ薬剤は臨床的価値があり得ると主張する一方で、このより広い適用可能性は本研究で直接検証されたものではなく、期待として述べられているにとどまることも認めている。
- 背景と目的:
-
やNAFLD ( お酒が原因ではないのに肝臓に脂肪がたまる病気の総称です。進行すると肝臓が傷みやすくなるため、早めの対策が重要です。) は、お酒が原因ではないのに肝臓に脂肪がたまり、炎症が続いてNASH ( NAFLDの中でも、脂肪がたまるだけでなく炎症や線維化が進むタイプです。肝硬変や肝がんにつながることがあるため特に問題になります。) などにつながる病気で、これから患者さんが増えると考えられています。対策として生活習慣の改善が大切ですが、肝臓の炎症や肝硬変 ( 線維化が強く進み、肝臓の形や働きが大きく壊れた状態です。命に関わる合併症や肝がんにつながります。) が進むのを止めるためには、薬による治療も必要だと考えられています。線維化 ( 炎症などが長く続いた結果、肝臓の中に硬い繊維成分が増えてしまう状態です。進むと肝臓が硬くなり、働きが落ちます。)
薬の効果を確かめるには、人のNASHに近い状態を再現できる動物モデルが必要です。そこでこの研究では、 を与えたWestern diet ( 脂肪や糖が多い、いわゆる欧米型の食事をまねた実験用のエサです。肥満や脂肪肝を起こしやすく、NASHモデル作りに使われます。) を使いました。このマウスはNASHのような炎症や線維化が起き、時間がたつと肝臓のがんができることもあります。Mc4r-KOマウス ( 食欲や体重調節に関わるMc4rという遺伝子が働かないようにしたマウスです。肥満やインスリン抵抗性などが起こりやすく、NASH研究に使われます。)
研究では、 という薬(ONO-1301 ( PGI2の働きをまねるように作られた、作用が長く続きやすい薬です。IP受容体を刺激し、TXA2を作る酵素も抑える特徴があります。) のはたらきをまねる薬)を調べました。ONO-1301は主にPGI2 ( 体の中で作られる物質で、血管を広げたり血栓ができにくくしたりする働きがあります。細胞の反応を変えて炎症や修復に関わることもあります。) を刺激して働き、同時にIP受容体 ( PGI2を受け取るための細胞表面のスイッチのようなものです。刺激されると細胞内でcAMPが増え、炎症や血管の働きなどに影響します。) を作る酵素も抑えます。これまでの研究で、prostaglandinの仕組みが肝臓を守る可能性や、ONO-1301が組織修復に関わる物質を増やす可能性が示されていました。そこで本研究の目的は、ONO-1301が生きた体の中でNASHの状態を良くするかを確かめ、さらにTXA2 ( 血管を縮めたり血小板を集めたりして、血栓を作りやすくする方向に働く物質です。作られすぎると血流の問題につながりやすいです。) 、マクロファージ ( 体内の掃除役の免疫細胞で、異物を処理します。一方で炎症を強める働きもあるため、NASHでは病気を悪化させる要因にもなります。) 、肝星細胞 ( 肝臓の中にいる細胞で、活性化するとコラーゲンを作って線維化を進めます。NASHの線維化を考えるうえで中心的な細胞です。) への影響(どう効くのか)を調べることです。内皮細胞 ( 血管の内側をおおう細胞です。血流や炎症、組織修復に関わる物質を出すため、病気の進み方に影響します。)
- 主要な発見:
-
をエサに混ぜて与えると、ONO-1301 ( PGI2の働きをまねるように作られた、作用が長く続きやすい薬です。IP受容体を刺激し、TXA2を作る酵素も抑える特徴があります。) モデルのNASH ( NAFLDの中でも、脂肪がたまるだけでなく炎症や線維化が進むタイプです。肝硬変や肝がんにつながることがあるため特に問題になります。) で、肝臓の傷みやMc4r-KOマウス ( 食欲や体重調節に関わるMc4rという遺伝子が働かないようにしたマウスです。肥満やインスリン抵抗性などが起こりやすく、NASH研究に使われます。) を示す血液検査や組織の指標が改善しました。たとえば、肝臓が傷むと上がりやすい線維化 ( 炎症などが長く続いた結果、肝臓の中に硬い繊維成分が増えてしまう状態です。進むと肝臓が硬くなり、働きが落ちます。) やALT ( 肝臓の細胞が傷むと血液中で増えやすい酵素で、肝障害の指標としてよく使われます。数値が高いほど肝臓が傷んでいる可能性があります。) 、総コレステロール、肝臓の重さの比が下がりました。ALP ( 胆管や肝臓の状態を反映することが多い酵素です。肝臓や胆道のトラブルの手がかりになります。)
線維化についても、 で赤く染まる範囲や、コラーゲン量の目安になるSirius Red染色 ( 組織の中のコラーゲンを赤く染めて、線維化の量を見やすくする方法です。線維化の程度を比較するのに使われます。) が減りました。また、脂肪をためた肝細胞のまわりにhydroxyproline ( コラーゲンに多く含まれる成分で、量を測ることで組織中のコラーゲン(線維化の目安)を推定できます。) が集まってできるマクロファージ ( 体内の掃除役の免疫細胞で、異物を処理します。一方で炎症を強める働きもあるため、NASHでは病気を悪化させる要因にもなります。) も減りました。肝臓のhCLS ( 脂肪をためた肝細胞のまわりにマクロファージが集まって輪のように見える構造です。肝臓の炎症や病気の進行と関係します。) は増える傾向がありました。cAMP ( 細胞の中で情報を伝える「セカンドメッセンジャー」と呼ばれる物質です。増えると炎症が弱まる方向に働く場合があり、薬の作用確認にも使われます。)
効果は、NASHができた後から投与した場合(mid-ONO)でも、最初から長く投与した場合(long-ONO)でも見られました。特にlong-ONOでは、脂質に関係する血液マーカーがより広く改善しました。さらに重要な点として、肝臓の腫瘍はONO-1301を長く使うほど発生が少なくなり、腫瘍が抑えられました。
細胞レベルの実験では、ONO-1301は で起きるマクロファージの炎症に関わる遺伝子の働きを抑え、マクロファージ内のcAMPを増やしました。またLPS ( 細菌(主にグラム陰性菌)の成分で、免疫細胞を強く刺激して炎症反応を起こします。実験で炎症を人工的に起こすためによく使われます。) では、活性化の目印となる遺伝子を抑え、静止状態に関係する遺伝子を増やし、肝星細胞 ( 肝臓の中にいる細胞で、活性化するとコラーゲンを作って線維化を進めます。NASHの線維化を考えるうえで中心的な細胞です。) を増やしました。VEGF ( 血管を作ることを促す増殖因子で、傷んだ組織の修復や血流の回復に関わります。) でも、内皮細胞 ( 血管の内側をおおう細胞です。血流や炎症、組織修復に関わる物質を出すため、病気の進み方に影響します。) とVEGFが増え、cAMPも増えました。HGF ( 肝細胞の増殖や修復を助ける増殖因子です。肝臓の回復力に関わるため重要です。)
- 方法論:
-
生きた動物での実験では、
に最初は通常食を与え、その後Mc4r-KOマウス ( 食欲や体重調節に関わるMc4rという遺伝子が働かないようにしたマウスです。肥満やインスリン抵抗性などが起こりやすく、NASH研究に使われます。) に変えてWestern diet ( 脂肪や糖が多い、いわゆる欧米型の食事をまねた実験用のエサです。肥満や脂肪肝を起こしやすく、NASHモデル作りに使われます。) のような状態を作りました。NASH ( NAFLDの中でも、脂肪がたまるだけでなく炎症や線維化が進むタイプです。肝硬変や肝がんにつながることがあるため特に問題になります。) はエサに0.01%の割合で混ぜて口から投与しました。投与方法として、Western dietだけの対照群、最後の8週間だけONO-1301を追加する群(mid-ONO)、全期間でONO-1301を投与する群(long-ONO)を比べました。ONO-1301 ( PGI2の働きをまねるように作られた、作用が長く続きやすい薬です。IP受容体を刺激し、TXA2を作る酵素も抑える特徴があります。)
評価は、血液検査( 、ASTなど)、肝臓の重さ、ALT ( 肝臓の細胞が傷むと血液中で増えやすい酵素で、肝障害の指標としてよく使われます。数値が高いほど肝臓が傷んでいる可能性があります。) でのSirius Red染色 ( 組織の中のコラーゲンを赤く染めて、線維化の量を見やすくする方法です。線維化の程度を比較するのに使われます。) の量、線維化 ( 炎症などが長く続いた結果、肝臓の中に硬い繊維成分が増えてしまう状態です。進むと肝臓が硬くなり、働きが落ちます。) でのコラーゲン量、F4/80染色でのhydroxyproline ( コラーゲンに多く含まれる成分で、量を測ることで組織中のコラーゲン(線維化の目安)を推定できます。) の集まり方(マクロファージ ( 体内の掃除役の免疫細胞で、異物を処理します。一方で炎症を強める働きもあるため、NASHでは病気を悪化させる要因にもなります。) の数)などで行いました。肝臓や細胞のhCLS ( 脂肪をためた肝細胞のまわりにマクロファージが集まって輪のように見える構造です。肝臓の炎症や病気の進行と関係します。) も測定しました。cAMP ( 細胞の中で情報を伝える「セカンドメッセンジャー」と呼ばれる物質です。増えると炎症が弱まる方向に働く場合があり、薬の作用確認にも使われます。)
細胞実験では、骨髄由来マクロファージ、マウスの 、ヒトの肝星細胞 ( 肝臓の中にいる細胞で、活性化するとコラーゲンを作って線維化を進めます。NASHの線維化を考えるうえで中心的な細胞です。) (内皮細胞 ( 血管の内側をおおう細胞です。血流や炎症、組織修復に関わる物質を出すため、病気の進み方に影響します。) )を使い、ONO-1301を加えたときの遺伝子発現やcAMPの変化を調べました。HUVECs ( ヒトのへその緒の静脈から取った内皮細胞で、内皮細胞の性質を調べる実験によく使われます。)
- 結論と意義:
-
この研究は、
がONO-1301 ( PGI2の働きをまねるように作られた、作用が長く続きやすい薬です。IP受容体を刺激し、TXA2を作る酵素も抑える特徴があります。) モデルマウスで肝臓の炎症を軽くし、NASH ( NAFLDの中でも、脂肪がたまるだけでなく炎症や線維化が進むタイプです。肝硬変や肝がんにつながることがあるため特に問題になります。) を抑えることを示しました。血液検査の改善、線維化指標の改善、線維化 ( 炎症などが長く続いた結果、肝臓の中に硬い繊維成分が増えてしまう状態です。進むと肝臓が硬くなり、働きが落ちます。) の減少、肝腫瘍の発生低下が見られ、NASHがすでに進んだ段階でも効果が期待できる可能性があると考えられました。hCLS ( 脂肪をためた肝細胞のまわりにマクロファージが集まって輪のように見える構造です。肝臓の炎症や病気の進行と関係します。)
効き方としては、 を通してIP受容体 ( PGI2を受け取るための細胞表面のスイッチのようなものです。刺激されると細胞内でcAMPが増え、炎症や血管の働きなどに影響します。) の経路を活性化することに関連しながら、cAMP ( 細胞の中で情報を伝える「セカンドメッセンジャー」と呼ばれる物質です。増えると炎症が弱まる方向に働く場合があり、薬の作用確認にも使われます。) の炎症を抑え、マクロファージ ( 体内の掃除役の免疫細胞で、異物を処理します。一方で炎症を強める働きもあるため、NASHでは病気を悪化させる要因にもなります。) の活性化を止めて線維化(コラーゲン増加)を抑え、さらに組織修復に関わる増殖因子(肝星細胞 ( 肝臓の中にいる細胞で、活性化するとコラーゲンを作って線維化を進めます。NASHの線維化を考えるうえで中心的な細胞です。) やVEGF ( 血管を作ることを促す増殖因子で、傷んだ組織の修復や血流の回復に関わります。) )を増やすという、複数の方向からの作用が示されました。HGF ( 肝細胞の増殖や修復を助ける増殖因子です。肝臓の回復力に関わるため重要です。)
一方でONO-1301はもともと別の目的の薬として開発され、ヒトの では下痢や頭痛などが報告されています。そのため、投与量や薬を届ける方法の工夫が重要だと考えられます。第I相試験 ( 新しい薬を人に初めて近い形で使い、安全性や副作用、体内での動きなどを主に確認する段階の臨床試験です。)
- 今後の展望:
-
まず、このマウスモデルは人の
を完全に再現しているわけではないため、別のNASHモデルでもNASH ( NAFLDの中でも、脂肪がたまるだけでなく炎症や線維化が進むタイプです。肝硬変や肝がんにつながることがあるため特に問題になります。) の効果を確かめる必要があります。ONO-1301 ( PGI2の働きをまねるように作られた、作用が長く続きやすい薬です。IP受容体を刺激し、TXA2を作る酵素も抑える特徴があります。)
また細胞実験では、NASHの肝臓から直接取り出した細胞ではなく、別の条件の細胞が使われています。そのため、NASHの肝臓にいる細胞を使った追加検証が求められます。
さらに、ONO-1301をゆっくり放出する製剤や、狙った場所に届けやすくする工夫も進んでおり、副作用を減らしつつ効果を高められる可能性があります。NASHは心臓や腎臓、肺の病気と一緒に起きることも多いので、複数の臓器で「組織修復」を助ける薬は役立つかもしれませんが、そこは今後の研究が必要です。
- 何のために?:
-
やNAFLD ( 肝臓 に脂肪 がたまりすぎる病気の名前です。お酒が原因 ではないのに起こります。病気の種類 を正しく分けて考えるために大切です。) は、NASH ( NAFLDの中でも、肝臓 に炎症 や傷 が起きて悪化しやすい病気の名前です。進むと肝臓 がかたくなったり、がんにつながることがあるので重要 です。) 肝臓 の病気です。
お酒が原因 でないのに起こります。
肝臓 に、脂肪 がたまりすぎます。
そのせいで、肝臓 がはれたりします。
この病気の人は、これから増 えそうです。
まずは、生活のしかたをよくします。
でも、薬も大事だと考えられます。
薬が本当に効 くか、確 かめます。
そのため、病気に近い動物がいります。
この研究では、特別 なマウスを使います。
太りやすく、肝臓 が悪くなりやすいです。
時間がたつと、がんになることもあります。
という薬を調べました。ONO-1301 ( 研究で調べた薬の名前です。体の中のはたらきをまねて、炎症 を弱めたり体を直す方向に働 かせることをねらいます。どの薬が効 くかを確 かめる中心になります。)
体の中のはたらきを、まねる薬です。
この薬が、NASHをよくするか見ます。
また、どんな細胞 に効 くかも調べます。
- 何が分かったの?:
-
マウスのエサに、薬をまぜました。
すると、肝臓 の調子がよくなりました。
の数字も、よくなりました。血液検査 ( 血をとって、体や肝臓 の状態 を数字で調べる検査 です。薬で肝臓 の悪さがよくなったかを客観的 に比 べるために使います。)
肝臓 がいたむと上がる数が下がりました。
も、下がりました。コレステロール ( 血や体の中にある脂 の成分 の一つです。多すぎると体に悪いことがあり、肝臓 の状態 とも関係 するので測 ります。)
肝臓 のはれも、小さくなりました。
肝臓 がかたくなる変化 も減 りました。
これは、線いのような物が増 えることです。
赤く染 まる場所が、少なくなりました。
の目安も、コラーゲン ( 体を支 えるためのたんぱく質 で、増 えすぎるとかたくなる原因 になります。肝臓 がかたくなる変化 が進んでいるかの目安になります。) 減 りました。
の炎症 ( 体の中で傷 や異物 に反応 して、赤くなったりはれたりする状態 です。強すぎたり長く続 くと臓器 が傷 つくので、薬でへらせるかが大事です。) 細胞 が集まる場所も減 りました。
病気が進んでからでも、効 きました。
はじめから長く使うと、もっと良 いです。
長く使うほど、 ができにくいです。腫瘍 ( 体の中で細胞 が増 えてできるかたまりです。良 いものも悪いものもありますが、がんにつながることがあるため、できにくくなるかが重要 です。)
細胞 の実験 もしました。
薬は、炎症 を起こす合図を弱めました。
体の中の合図の物質 も増 えました。
別 の細胞 では、かたくなる働 きを止めました。
体を直す物質 も、増 えました。
- どうやったの?:
-
まずマウスに、ふつうのエサをあげます。
次に、脂 っこいエサにかえます。
それで、 に近いNASH ( NAFLDの中でも、肝臓 に炎症 や傷 が起きて悪化しやすい病気の名前です。進むと肝臓 がかたくなったり、がんにつながることがあるので重要 です。) 状態 を作ります。
薬はエサに少しまぜ、口から入れます。
薬なしの群 と、薬ありの群 を比 べます。
後半だけ薬の群 も作りました。
はじめからずっと薬の群 も作りました。
血液 の検査 をしました。
肝臓 の重さも、はかりました。
肝臓 がかたくなる量 も調べました。
のコラーゲン ( 体を支 えるためのたんぱく質 で、増 えすぎるとかたくなる原因 になります。肝臓 がかたくなる変化 が進んでいるかの目安になります。) 量 の目安も見ました。
の炎症 ( 体の中で傷 や異物 に反応 して、赤くなったりはれたりする状態 です。強すぎたり長く続 くと臓器 が傷 つくので、薬でへらせるかが大事です。) 細胞 の集まりも数えました。
体の中の合図の物質 も測 りました。
別 に、細胞 だけの実験 もしました。
いくつかの細胞 に薬を加 えました。
そして、変化 をくわしく調べました。
- 研究のまとめ:
-
は、ONO-1301 ( 研究で調べた薬の名前です。体の中のはたらきをまねて、炎症 を弱めたり体を直す方向に働 かせることをねらいます。どの薬が効 くかを確 かめる中心になります。) 肝臓 の をへらしました。炎症 ( 体の中で傷 や異物 に反応 して、赤くなったりはれたりする状態 です。強すぎたり長く続 くと臓器 が傷 つくので、薬でへらせるかが大事です。)
肝臓 がかたくなる変化 も止めました。
も、いろいろよくなりました。血液検査 ( 血をとって、体や肝臓 の状態 を数字で調べる検査 です。薬で肝臓 の悪さがよくなったかを客観的 に比 べるために使います。)
炎症 の細胞 の集まりも減 りました。
肝臓 の も、できにくくなりました。腫瘍 ( 体の中で細胞 が増 えてできるかたまりです。良 いものも悪いものもありますが、がんにつながることがあるため、できにくくなるかが重要 です。)
病気が進んだあとでも、期待できます。
薬は、いくつかの力で助けます。
炎症 を弱め、かたくなるのも止めます。
さらに、体を直す物質 も増 やします。
ただし、この薬は別 の目的 で作られました。
人では、下痢 や頭痛 が出たこともあります。
だから、量 や使い方の工夫 が大切です。
- これからどうする?:
-
このマウスは、人の病気と全く同じではありません。
別 の でも、病気モデル ( 人の病気に近い状態 を、動物や細胞 で作って調べるためのものです。人でいきなり試 せないことを、まず確 かめるために必要 です。) 確 かめる必要 があります。
細胞 の実験 も、もっと本物に近づけます。
病気の肝臓 から取った細胞 でも調べます。
薬がゆっくり出る形も研究されています。
ねらった場所に届 ける工夫 も進んでいます。
をへらし、副作用 ( 薬の目的 とは別 に起こる、困 ったはたらきや症状 のことです。安全に使うために、量 や使い方を考える必要 があります。) 効 きを強くできそうです。
は、ほかの病気とNASH ( NAFLDの中でも、肝臓 に炎症 や傷 が起きて悪化しやすい病気の名前です。進むと肝臓 がかたくなったり、がんにつながることがあるので重要 です。) 一緒 のこともあります。
いろいろな臓器 を直す薬は役立つかもしれません。
これからの研究で、もっと分かります。
- 著者名:
- 茂木 聡子
- 新潟大学学術リポジトリリンク:
- http://hdl.handle.net/10191/0002000833
