論文詳細
医歯学系
大学院医歯学総合研究科(医)
#学位論文
Visiumシステムを用いたマウス鼻腔内ワクチン接種後の空間トランスクリプトーム解析への応用
- AI解説:
- SARS-CoV-2は主に上気道から体内に侵入する一方で、承認済みワクチンの多くは筋肉内または皮下に投与される。本論文は、粘膜免疫(mucosal immunization)が非侵襲的であり、感染部位での防御に関係する分泌型免疫グロブリンA(secretory immunoglobulin A: IgA)の持続的な応答を誘導し得る点で魅力的だと論じ、鼻関連リンパ組織(nasal-associated lymphoid tissue: NALT)と鼻腔(nasal passage: NP)を、重要な解剖学的・機能的文脈として強調する。著者らは以前、SARS-CoV-2スパイクタンパク質を粘膜付着性(mucoadhesive)のcarboxyvinyl polymer(CVP)と混合して経鼻投与すると、スパイクタンパク質単独と比べて抗体価が顕著に上昇し、防御効果ではAlumを上回ることを示した。しかし、鼻腔内のどこで、どのように初期の免疫活性化が起こるのかは不明のままだった。従来の免疫組織化学、FACS、in situ法は、遺伝子や細胞種のカバレッジに限界があるため、空間情報を保ったまま転写産物を包括的に解析できるspatial transcriptomics(ST)の利用が動機づけられた。したがって中心的な目的は2つであり、(i) 脱灰(decalcification:RNA劣化のリスクがある)が必要な状況でもVisiumシステムに適合する、マウス鼻腔組織のSTワークフローを確立すること、(ii) この方法を用いて、経鼻S-CVPワクチン接種後の初期における時間分解(time-resolved)の遺伝子発現変化をマッピングすることである。
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医歯学系
大学院医歯学総合研究科(医)
#学位論文
Visiumシステムを用いたマウス鼻腔内ワクチン接種後の空間トランスクリプトーム解析への応用
AI解説
- 背景と目的:
-
SARS-CoV-2は主に上気道から体内に侵入する一方で、承認済みワクチンの多くは筋肉内または皮下に投与される。本論文は、粘膜免疫(mucosal immunization)が非侵襲的であり、感染部位での防御に関係する分泌型免疫グロブリンA(secretory immunoglobulin A: IgA)の持続的な応答を誘導し得る点で魅力的だと論じ、鼻関連リンパ組織(nasal-associated lymphoid tissue: NALT)と鼻腔(nasal passage: NP)を、重要な解剖学的・機能的文脈として強調する。著者らは以前、SARS-CoV-2スパイクタンパク質を粘膜付着性(mucoadhesive)のcarboxyvinyl polymer(CVP)と混合して経鼻投与すると、スパイクタンパク質単独と比べて抗体価が顕著に上昇し、防御効果ではAlumを上回ることを示した。しかし、鼻腔内のどこで、どのように初期の免疫活性化が起こるのかは不明のままだった。従来の免疫組織化学、FACS、in situ法は、遺伝子や細胞種のカバレッジに限界があるため、空間情報を保ったまま転写産物を包括的に解析できるspatial transcriptomics(ST)の利用が動機づけられた。したがって中心的な目的は2つであり、(i) 脱灰(decalcification:RNA劣化のリスクがある)が必要な状況でもVisiumシステムに適合する、マウス鼻腔組織のSTワークフローを確立すること、(ii) この方法を用いて、経鼻S-CVPワクチン接種後の初期における時間分解(time-resolved)の遺伝子発現変化をマッピングすることである。
- 主要な発見:
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本研究は、骨を含むマウス鼻組織を脱灰した後でも、FFPEの空間遺伝子発現プロファイリングに十分なRNA品質を保ちながら、VisiumベースのSTが実施可能であることを確立した。約2日間の脱灰アプローチにより、DV200値が70%を超え(DV200が79%、85%、78%、82%、78%、74%、78%、78%のブロックが8つあると報告)、Visium推奨の>50%という閾値を上回った。空間遺伝子発現パターンは組織学的形態と整合しており、骨に関連するスポットでは骨/筋肉関連遺伝子(例:Col1a2、Bglap)が濃縮されていたことから、脱灰後も生物学的に首尾一貫したシグナルが保持されることが示された。鼻上皮/リンパ組織領域では、高発現の転写産物は鼻/嗅覚関連遺伝子(例:Obp1a、Mup4)が中心で、免疫関連遺伝子(Ptprc(CD45)、Cd19、Cd4、Cd8a)も検出されたが相対的に低く、リンパ球が支持組織内に埋め込まれていることと整合的であった。S-CVP接種後、Ptprc、Cd19、Cd4、Cd8aのシグナルはNPとNALTの両方に存在したが、3、6、24 hrでは初期の位置的変化や発現増加は明瞭には認められなかった。これに対して、M細胞マーカー遺伝子(Gp2、Sox8、Spib)は3–6 hrにNPで増加し、M細胞関連プログラムの迅速な活性化を示唆した。時系列クラスタリングにより、3–6 hrに出現して24 hrまでに減衰するクラスター(特にCluster 9)が同定され、Cluster 9は鼻の表面に局在した。6 hrのCluster 9内では、295遺伝子が有意に上方制御(p < 0.05かつlog2 fold change ≥ 1)、100遺伝子が有意に下方制御(p < 0.05かつlog2 fold change ≤ −1)された。Il6が最も強く誘導され、3–6 hrでピークに達して24 hrまでに低下し、Edn2、Ccl20、Hk2などでも同様の時間パターンが報告された。共発現マッピングからは、3–6 hrにNPでItgax–Il6の共局在シグナル増加が示唆された一方、Edn2/Ccl20/Hk2とItgaxについては同等の変化は報告されなかった。マクロファージマーカー(Adgre1)とIl6/Edn2/Ccl20/Hk2の共発現は観察されたが、有意なドット数変化は示さなかった。
- 方法論:
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雌のBALB/cマウス(5–6週齢)に対し、SARS-CoV-2スパイクタンパク質5 μgをCVPと混合したS-CVPを、単回で経鼻投与した。投与量は合計10 μL(各NPに5 μL)である。マウスは接種後0 hr(未接種対照)、3 hr、6 hr、24 hrに安楽死させ、頭部を回収した。Visium対応のFFPE作製のため、頭部を4% PFAで24 hr固定し、その後、10% EDTA-4Na/PBSに1.5%クエン酸(citric acid)(pH 7.0–7.5)を加えた溶液で、室温・振盪下で46–50 hr脱灰した。続いてパラフィン浸透および包埋を行った。FFPE切片からのRNA品質は、QIAGEN RNeasy FFPE kitで抽出後、DV200指標(Bioanalyzerプロファイル経由)で評価し、DV200を50%より十分高く保つことを目標とした。Visium Spatial Gene Expression for FFPEは、Visiumスライド(キャプチャ領域6.5 × 6.5 mm)に載せた厚さ5 μmの切片で実施し、スライド上でのライブラリ構築前にHE画像取得を行った。ライブラリ(平均233–239 bp;2.1–4.42 nM)はIllumina NextSeq 550で、サンプルあたり約69–127 million readsでシーケンスした。データ処理はSpace Ranger-1.3.1で統合し、Loupe Browser 6.1.0で可視化と遺伝子レベル比較を行った(このワークフローはSeuratなどのツールより制約が大きい、という著者らの注記あり)。HE画像上で骨領域および「鼻上皮とリンパ組織」領域を手動でアノテーションし、差次的発現解析には“Globally Distinguishing”法を用いてp < 0.05とした。6 hrのCluster 9特異的な制御は、さらにlog2 fold changeの閾値(≥ 1または≤ −1)でフィルタした。NALT/NPにおける免疫細胞の存在を裏づける検証として、CD4、CD8α、CD19の免疫組織化学、および免疫マーカー(CD45、CD19、CD4、CD8a、CD11c、F4/80を含む)のFACSを用いた。シーケンスデータの公開登録も示された(DRA016585;ESUB001457)。
- 結論と意義:
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本研究は、骨を含むため脱灰が必要なマウス鼻腔でも、RNAの完全性をDV200 > 50%で維持できればVisiumベースのspatial transcriptomicsを成功裏に適用できる、と結論づける。著者らは、EDTA/クエン酸プロトコルにより脱灰時間を短縮しつつ高いDV200値を維持することで、これを達成した。この方法論的進展は、骨を含む頭部組織において、空間分解能を保った全トランスクリプトーム規模のマッピングを可能にするものとして位置づけられる。また、骨領域の遺伝子シグネチャ(例:Col1a2、Bglap)が、空間シグナルが解剖学的に忠実であることの内部確認として機能する。生物学的には、接種後早期(3–6 hr)において、NP/NALTで広範なリンパ球マーカー(Ptprc、Cd19、Cd4、Cd8a)の増加や再局在は検出されず、著者らは、こうした免疫能をもつ細胞の分化・増殖には通常数日を要するため妥当であり得ると解釈している。その代わりに本研究は、鼻表面における迅速で局所的な転写変化を強調し、M細胞マーカー(Gp2、Sox8、Spib)の発現増加や、Il6をはじめ強く誘導される遺伝子に富む一過性クラスター(Cluster 9)、さらに同様の時間動態を示すEdn2、Ccl20、Hk2などを示した。著者らはこれらの観察を、CVPによる保持と取り込みがM細胞の関与を高め、サイトカインに関連した抗原提示細胞の活性化を引き起こし得る、という初期応答シーケンスの提案へと統合し、STを鼻粘膜免疫に関連する時空間的な活性化パターンを再構成するツールとして提示している。
- 今後の展望:
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著者らは、初期(3–24 hr)のプロファイルでは典型的リンパ球マーカーの発現や局在の増加が示されなかった一方で、下流の適応免疫応答は数日かけて進展すると予想されることから、S-CVP接種後のより遅い時点(数日後)へ解析を拡張することを明確に提案している。また、さらなる遺伝子発現解析により、より有効な粘膜ワクチン開発を支える基盤情報が得られる可能性があるとして、より深い、あるいはより広範な空間プロファイリングが、ワクチン誘導性の鼻免疫に最も重要な細胞種や分子経路の解明に役立つ可能性を示唆している。ワクチン研究にとどまらず、鼻組織におけるspatial transcriptomicsは、鼻腔特異的な他の生理現象の分子機構を明らかにする用途にも適用できると見込まれており、嗅覚(olfaction)やアレルギー反応(allergic reactions)を、空間分解能をもつトランスクリプトームデータが有益となり得る領域として明示している。
- 背景と目的:
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新型コロナウイルス(
)は、主に鼻やのどなどの上気道から体に入ってきます。しかし、すでに使われているワクチンの多くは、腕の筋肉などに注射するタイプです。そこで著者らは、鼻から入れる「粘膜ワクチン」が、痛みが少ないうえに、感染が起こりやすい場所(鼻など)で働く免疫を強くできる点で重要だと考えました。特に、鼻の免疫に関わる場所として、SARS-CoV-2 ( 新型コロナウイルス感染症の原因となるウイルスで、主に鼻やのどから感染します。どこで体が反応を始めるかを調べる対象になります。) と鼻腔 ( 鼻の中の空気の通り道です。鼻から入れるワクチンが最初に触れる場所なので重要です。) に注目しました。NALT ( 鼻の奥にあるリンパ組織で、鼻の免疫反応の中心の1つです。抗体づくりなどに関わります。)
また著者らは以前、SARS-CoV-2の を、粘膜にくっつきやすいスパイクタンパク質 ( ウイルス表面にある突起のタンパク質で、細胞に結びつくために使われます。ワクチンの抗原としてよく使われます。) という物質と混ぜて鼻から投与すると、スパイクタンパク質だけの場合より抗体が大きく増え、よく使われる補助成分(CVP ( 粘膜にくっつきやすい高分子で、ワクチン成分を鼻の表面にとどめやすくすると考えられます。免疫反応を強める助けになります。) )よりも高い防御効果が出ることを示していました。ただし、鼻の中の「どこで」「どのように」最初の免疫反応が始まるのかは、まだよく分かっていませんでした。Alum ( 注射ワクチンでよく使われる補助成分です。免疫反応を強める目的で使われ、今回の比較対象になります。)
そこで本研究では、遺伝子の働きを「場所の情報を保ったまま」広く調べられる を使い、次の2つを目標にしました。(1)骨を含む鼻の組織では薄く切るためにspatial transcriptomics ( 遺伝子の働き方を「組織のどの場所か」という情報と一緒に広く調べる技術です。鼻の中のどこで反応が起きるかを知るために重要です。) が必要ですが、脱灰しても脱灰 ( 骨のカルシウムを抜いて柔らかくし、薄い切片を作れるようにする処理です。ただしRNAが傷みやすいので工夫が必要です。) で解析できる手順を作ること。(2)鼻ワクチン(S-CVP)を入れた直後から24時間までに、鼻の中でどんな遺伝子変化が起きるかを地図のように示すことです。Visium ( spatial transcriptomicsを行うための装置・仕組みの1つです。多数の地点で遺伝子発現を測れます。)
- 主要な発見:
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本研究は、マウスの鼻組織を
したあとでも、RNAの質を十分に保てれば、脱灰 ( 骨のカルシウムを抜いて柔らかくし、薄い切片を作れるようにする処理です。ただしRNAが傷みやすいので工夫が必要です。) を使った空間的な遺伝子解析ができることを示しました。約2日間の脱灰により、RNAの品質指標であるVisium ( spatial transcriptomicsを行うための装置・仕組みの1つです。多数の地点で遺伝子発現を測れます。) が70%以上となり、Visiumで推奨される50%を超えました。DV200 ( RNAの品質指標で、一定以上の長さのRNA断片がどれくらい残っているかを示します。Visiumの解析が成立するかどうかの重要な基準です。)
解析結果は、顕微鏡で見た組織の形とよく一致しました。たとえば骨の部分では骨に関係する遺伝子が多く見つかり、脱灰しても意味のあるデータが取れていると確認できました。鼻の上皮やリンパ組織がある部分では、鼻の機能に関わる遺伝子が多く、免疫細胞の目印になる遺伝子も見つかりましたが、全体としては強くは出ませんでした。
ワクチン投与後の初期(3、6、24時間)では、リンパ球の目印となる遺伝子(CD45、CD19、CD4、CD8aなど)は、はっきり増えたり場所が大きく変わったりはしませんでした。一方で、粘膜で免疫反応を始めるのに重要な の目印となる遺伝子(M細胞 ( 粘膜で異物を取り込み、免疫反応の開始に関わる特別な上皮細胞です。鼻ワクチンの抗原取り込みに関係します。) 、Gp2 ( M細胞の目印遺伝子の1つです。鼻でM細胞が反応しているかを知る手がかりになります。) 、Sox8 ( M細胞の性質づくりに関わる目印遺伝子の1つです。M細胞関連の変化を追うのに使われます。) )は、3〜6時間にSpib ( M細胞の分化や機能に関係する目印遺伝子の1つです。早期の粘膜免疫の立ち上がりと関連づけて見られます。) で増えました。鼻腔 ( 鼻の中の空気の通り道です。鼻から入れるワクチンが最初に触れる場所なので重要です。)
さらに時間ごとの解析で、3〜6時間に現れて24時間までに弱まる特徴的な遺伝子の集まり(Cluster 9)が見つかり、これは鼻の表面に集中していました。Cluster 9では が特に強く増え、同じような増え方をする遺伝子としてIl6 ( サイトカインの一種で、炎症や免疫反応の開始に関わります。今回、鼻表面で早期に強く増える遺伝子として注目されました。) 、Edn2 ( 体内の環境調整に関わる物質の遺伝子で、炎症環境や免疫細胞のふるまいに影響する可能性が指摘されています。) 、Ccl20 ( 免疫細胞を呼び寄せる信号に関わる遺伝子です。炎症が起きた場所に樹状細胞などを集める働きが知られています。) なども確認されました。また、Hk2 ( 細胞がエネルギーを作る最初の段階に関わる酵素の遺伝子です。免疫細胞が活性化すると代謝が変わるため、その指標になり得ます。) の目印遺伝子樹状細胞 ( 抗原提示細胞の一種で、異物情報をリンパ球に伝えて免疫反応を進めます。初期反応の中心になりやすい細胞です。) とIl6が同じ場所で増える傾向も示されました。Itgax ( 樹状細胞の目印としてよく使われる遺伝子です。Il6と一緒に増える場所があるかを調べるのに利用されました。)
- 方法論:
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5〜6週齢の雌BALB/cマウスに、
SARS-CoV-2 ( 新型コロナウイルス感染症の原因となるウイルスで、主に鼻やのどから感染します。どこで体が反応を始めるかを調べる対象になります。) 5μgとスパイクタンパク質 ( ウイルス表面にある突起のタンパク質で、細胞に結びつくために使われます。ワクチンの抗原としてよく使われます。) を混ぜたS-CVPを、鼻から1回投与しました。投与量は合計10μLで、左右のCVP ( 粘膜にくっつきやすい高分子で、ワクチン成分を鼻の表面にとどめやすくすると考えられます。免疫反応を強める助けになります。) に5μLずつ入れました。接種後0時間(未接種)、3時間、6時間、24時間で組織を回収しました。鼻腔 ( 鼻の中の空気の通り道です。鼻から入れるワクチンが最初に触れる場所なので重要です。)
組織は固定してから、EDTAとクエン酸を含む液で約46〜50時間 し、脱灰 ( 骨のカルシウムを抜いて柔らかくし、薄い切片を作れるようにする処理です。ただしRNAが傷みやすいので工夫が必要です。) ブロックを作りました。RNAの品質はFFPE ( 組織を固定してパラフィンに埋めて保存する標準的な方法です。長期保存できる一方でRNAが劣化しやすい点があります。) で確認し、DV200 ( RNAの品質指標で、一定以上の長さのRNA断片がどれくらい残っているかを示します。Visiumの解析が成立するかどうかの重要な基準です。) での解析は厚さ5μmの切片を使って行いました。データはSpace RangerとLoupe Browserで処理し、骨領域と「鼻上皮とリンパ組織」領域を画像上で指定して比較しました。免疫細胞の存在確認として、Visium ( spatial transcriptomicsを行うための装置・仕組みの1つです。多数の地点で遺伝子発現を測れます。) 染色と免疫組織化学 ( 組織の中で特定のタンパク質を染色して、どんな細胞がどこにいるかを調べる方法です。遺伝子解析の結果の裏づけに使われます。) も行いました。FACS ( 細胞を1個ずつ測定して種類を分けて数える方法です。免疫細胞がいるかどうかを確認するのに使われます。)
- 結論と意義:
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骨を含むマウス
組織でも、鼻腔 ( 鼻の中の空気の通り道です。鼻から入れるワクチンが最初に触れる場所なので重要です。) 後のRNA品質(脱灰 ( 骨のカルシウムを抜いて柔らかくし、薄い切片を作れるようにする処理です。ただしRNAが傷みやすいので工夫が必要です。) )が50%を超えていれば、DV200 ( RNAの品質指標で、一定以上の長さのRNA断片がどれくらい残っているかを示します。Visiumの解析が成立するかどうかの重要な基準です。) を使ったVisium ( spatial transcriptomicsを行うための装置・仕組みの1つです。多数の地点で遺伝子発現を測れます。) で「場所つきの遺伝子発現」を調べられると結論づけました。EDTAとクエン酸を使って脱灰時間を短くし、RNAの劣化を抑えたことが成功のポイントです。spatial transcriptomics ( 遺伝子の働き方を「組織のどの場所か」という情報と一緒に広く調べる技術です。鼻の中のどこで反応が起きるかを知るために重要です。)
生物学的な結果としては、接種後すぐ(3〜24時間)にリンパ球が増えるような変化は見えませんでした。これは、リンパ球が増えたり分化したりするには通常もっと時間がかかるため、あり得る結果だと考えられます。その代わりに、鼻の表面で に関わる反応が早く起こり、M細胞 ( 粘膜で異物を取り込み、免疫反応の開始に関わる特別な上皮細胞です。鼻ワクチンの抗原取り込みに関係します。) などの遺伝子が一時的に強く増えることが示されました。これらは、鼻からのワクチンが最初にどんな順番で免疫を動かすのかを考える手がかりになります。Il6 ( サイトカインの一種で、炎症や免疫反応の開始に関わります。今回、鼻表面で早期に強く増える遺伝子として注目されました。)
- 今後の展望:
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今回の解析は接種後24時間までの「超初期」でした。そのため、数日後に進むと予想される適応免疫(リンパ球が本格的に働く反応)を調べるために、もっと遅い時点でも解析することが提案されています。
また、より詳しい遺伝子解析を進めれば、鼻からのワクチンをより効果的にするために重要な細胞や仕組みが見つかる可能性があります。さらに、ワクチン研究だけでなく、嗅覚やアレルギー反応など、鼻特有の働きを「場所つき遺伝子データ」で理解する研究にも応用できると期待されています。
- 何のために?:
-
は、鼻やのどから入ります。新型 コロナウイルス( 新しく見つかったコロナウイルスのことで病気を起こします。何についての研究かを決める中心の言葉です)
でも、 はワクチン ( 病気になりにくくするために体に先に学習させる薬です。体の守りを強くする方法 として重要 です) 腕 に注射 するものが多いです。
そこで、鼻から入れるワクチンに注目しました。
鼻のワクチンは、痛 みが少ないです。
それに、鼻で働 く守りを強くできそうです。
研究チームは、鼻の中の場所を調べました。
とくに、鼻の通り道と を見ました。NALT ( 鼻の近くにある免疫 のはたらきをする場所です。鼻のワクチンがどこで効 きはじめるかに関係 します)
NALTは、鼻の近くの の場所です。免疫 ( 体を病気から守るしくみです。ワクチン研究の中心になる考え方です)
前の研究では、工夫 した鼻ワクチンを使いました。
とスパイクたんぱく ( ウイルスの表面にあるたんぱくで体に入るときの目印 になります。これを使って体にウイルスを学習させます) をまぜました。CVP ( ワクチンの働 きを強めるためにスパイクたんぱくといっしょに使う成分 です。抗体 などの反応 を強くするために重要 です)
それを鼻に入れると、 がよく抗体 ( 体の中で作られてウイルスなどにくっついて弱らせる物質 です。ワクチンが効 いたかどうかの大事な目安です) 増 えました。
ふつうの より、守りが高めでした。助けの 成分 ( ワクチンの効果 を高めるために足す成分 です。どれを使うかで守りの強さが変 わります)
でも、鼻のどこで反応 が始まるかは不明 でした。
そこで、 の遺伝子 ( 体の設計図 になる情報 です。どの遺伝子 が働 いたかで体の反応 が分かります) 働 きを場所ごとに調べました。
この方法 で、地図みたいに見られます。
目標 は2つありました。
1つ目は、鼻の骨 を切る準備 を整えることです。
2つ目は、24時間までの変化 を調べることです。
- 何が分かったの?:
-
鼻の
骨 をとかしたあとでも、調べられました。
というRNA ( 遺伝子 の情報 を使うための材料 で細胞 の中で作られます。残 り方が悪いと正しい分析 ができません) 情報 が、十分に残 れば大丈夫 でした。
約 2日で、 が70%DV200 ( RNAの質 のよさを表す数字です。この値 が高いほど分析 しやすいので重要 です) 以上 になりました。
これは、調べるのに良 い数字です。
結果 は、 で見た形と合いました。顕微鏡 ( とても小さいものを大きく見られる道具です。組織 の形をたしかめるのに使います)
骨 の場所では、骨 の が多かったです。遺伝子 ( 体の設計図 になる情報 です。どの遺伝子 が働 いたかで体の反応 が分かります)
だから、データはちゃんと取れていました。
鼻の表面の場所では、鼻の遺伝子 が多めでした。
の免疫 ( 体を病気から守るしくみです。ワクチン研究の中心になる考え方です) 細胞 の目印 も、少し見つかりました。
後すぐは、ワクチン ( 病気になりにくくするために体に先に学習させる薬です。体の守りを強くする方法 として重要 です) はあまりリンパ球 ( 体を守る免疫 の細胞 の一つです。本格的 な免疫反応 が起きているかを見る手がかりになります) 変 わりません。
3時間、6時間、24時間でも大きく変化 なしでした。
でも、 のM 細胞 ( 鼻などで外から来たものを取りこみ免疫 に伝 えるのを助ける細胞 です。鼻ワクチンの早い反応 に関係 します) 目印 は増 えました。
3〜6時間に、鼻の通り道で増 えました。
また、特別 な遺伝子 のまとまりが見つかりました。
それは3〜6時間に出て、24時間に弱まりました。
その反応 は、鼻の表面に集まっていました。
というIl6 ( 免疫 の反応 で増 える遺伝子 の名前です。炎症 や体の反応 が強まった合図として重要 です) 遺伝子 が、とくに強く増 えました。
ほかにも、にた増 え方の遺伝子 がありました。
また、別 の免疫 の目印 と同じ場所で増 えました。
- どうやったの?:
-
5〜6週のメスのマウスを使いました。
とスパイクたんぱく ( ウイルスの表面にあるたんぱくで体に入るときの目印 になります。これを使って体にウイルスを学習させます) をまぜて使いました。CVP ( ワクチンの働 きを強めるためにスパイクたんぱくといっしょに使う成分 です。抗体 などの反応 を強くするために重要 です)
その液 を、鼻から1回だけ入れました。
量 は10μLで、左右に5μLずつです。
0時間、3時間、6時間、24時間で集めました。
鼻の を組織 ( 体を作る部分の集まりです。どの場所で何が起きたか調べる対象 になります) 固 めてから、骨 をとかしました。
とEDTA ( 金属 とくっつく性質 を使って骨 をとかしやすくする薬品です。骨 がある場所の組織 を調べるために使います) のクエン 酸 ( 酸 の一つで骨 をとかす処理 を助けます。標本 を作るときに必要 になります) 液 に、約 2日つけました。
そのあと、組織 を にしました。ブロック ( 組織 を固 めて切りやすくしたかたまりです。きれいな標本 を作るために使います)
のRNA ( 遺伝子 の情報 を使うための材料 で細胞 の中で作られます。残 り方が悪いと正しい分析 ができません) 良 さは、 でたしかめました。DV200 ( RNAの質 のよさを表す数字です。この値 が高いほど分析 しやすいので重要 です)
うすく切った で、標本 ( うすく切って観察 や分析 ができるようにした試料 です。場所ごとの変化 を調べる基本 になります) をしました。場所つき 解析 ( 組織 のどの場所で遺伝子 が働 いたかを地図のように調べる方法 です。鼻のどこで反応 が始まるか分かるので重要 です)
画像 で場所を分けて、くらべました。
ほかの方法 でも、 の免疫 ( 体を病気から守るしくみです。ワクチン研究の中心になる考え方です) 細胞 を見ました。
- 研究のまとめ:
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鼻に
骨 があっても、 ができました。場所つき 解析 ( 組織 のどの場所で遺伝子 が働 いたかを地図のように調べる方法 です。鼻のどこで反応 が始まるか分かるので重要 です)
が50%をこえると、調べやすいです。DV200 ( RNAの質 のよさを表す数字です。この値 が高いほど分析 しやすいので重要 です)
骨 をとかす時間を短くしたのが大事でした。
それで、 がこわれにくくなりました。RNA ( 遺伝子 の情報 を使うための材料 で細胞 の中で作られます。残 り方が悪いと正しい分析 ができません)
後すぐは、ワクチン ( 病気になりにくくするために体に先に学習させる薬です。体の守りを強くする方法 として重要 です) はリンパ球 ( 体を守る免疫 の細胞 の一つです。本格的 な免疫反応 が起きているかを見る手がかりになります) 増 えませんでした。
リンパ球が本気で動くには、時間がかかります。
だから、この結果 はおかしくありません。
そのかわり、鼻の表面で早い反応 が見えました。
にM 細胞 ( 鼻などで外から来たものを取りこみ免疫 に伝 えるのを助ける細胞 です。鼻ワクチンの早い反応 に関係 します) 関 わる反応 が、先に起こりました。
などが、Il6 ( 免疫 の反応 で増 える遺伝子 の名前です。炎症 や体の反応 が強まった合図として重要 です) 一時的 に強く増 えました。
これは、鼻ワクチンの最初 の動きを知る手がかりです。
- これからどうする?:
-
今回は、24時間までの早い時期だけでした。
だから、数日後も調べる必要 があります。
そうすると、 の本番のリンパ球 ( 体を守る免疫 の細胞 の一つです。本格的 な免疫反応 が起きているかを見る手がかりになります) 反応 が分かります。
もっと細かく調べれば、良 い作り方が見つかります。
鼻 を、もっと強くできるかもしれません。ワクチン ( 病気になりにくくするために体に先に学習させる薬です。体の守りを強くする方法 として重要 です)
ワクチン以外 の研究にも使えそうです。
たとえば、においのしくみや です。アレルギー ( あるものに体が強く反応 して症状 が出る状態 です。鼻の研究が役立つ別 の例 として出てきます)
鼻の働 きを、場所つきで分かりやすくできます。
- 著者名:
- 外山 咲紀子
- 新潟大学学術リポジトリリンク:
- http://hdl.handle.net/10191/0002001394
