論文詳細
経済科学部
#紀要論文
Donor Enrichment Can Never Occur When the Recipient Imposes a Tariff in a Two-Country Model
- AI解説:
- 本論文は、国際貿易理論における「transfer paradox(移転のパラドックス)」問題を再検討する。この問題は歴史的に、賠償金支払いをめぐる議論(例:Keynes–Ohlin論争)と結び付けられてきた。自由貿易の下でWalrasian(ワルラス的)市場安定性を仮定する標準的な2国2財モデルでは、先行研究(とくにSamuelson (1947))により、transfer paradoxは起こり得ないことが示唆されている。その後、Bhagwati, Brecher, and Hatta (1985)(BBH)は、関税などの貿易の歪みがパラドックス的な厚生結果を生みうること、そして輸入財のinferiority(劣等性)がそのようなパラドックスの必要条件であることを示した。しかし著者は、BBHの結果は必要条件にとどまり、したがってパラドックスが実際にいつ生じるかを特徴づけるには不十分だと主張する。本論文の目的は、受取国が輸入関税を課す2国枠組みにおいてtransfer paradoxの条件を再評価し、とりわけ受取国の関税が存在する場合に「donor enrichment(供与国の利得化)」が起こりうるかどうかに関して、十分条件型の結果を確立することである。
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経済科学部
#紀要論文
Donor Enrichment Can Never Occur When the Recipient Imposes a Tariff in a Two-Country Model
AI解説
- 背景と目的:
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本論文は、国際貿易理論における「transfer paradox(移転のパラドックス)」問題を再検討する。この問題は歴史的に、賠償金支払いをめぐる議論(例:Keynes–Ohlin論争)と結び付けられてきた。自由貿易の下でWalrasian(ワルラス的)市場安定性を仮定する標準的な2国2財モデルでは、先行研究(とくにSamuelson (1947))により、transfer paradoxは起こり得ないことが示唆されている。その後、Bhagwati, Brecher, and Hatta (1985)(BBH)は、関税などの貿易の歪みがパラドックス的な厚生結果を生みうること、そして輸入財のinferiority(劣等性)がそのようなパラドックスの必要条件であることを示した。しかし著者は、BBHの結果は必要条件にとどまり、したがってパラドックスが実際にいつ生じるかを特徴づけるには不十分だと主張する。本論文の目的は、受取国が輸入関税を課す2国枠組みにおいてtransfer paradoxの条件を再評価し、とりわけ受取国の関税が存在する場合に「donor enrichment(供与国の利得化)」が起こりうるかどうかに関して、十分条件型の結果を確立することである。
- 主要な発見:
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中心的な結論は、本論文が扱う2国モデルでは、受取国が関税を課しているときdonor enrichmentは起こり得ないという点である。すなわち、輸入財が劣等財である場合であっても、関税率の水準にかかわらず、移転を行えば供与国の厚生は必ず低下する。本論文が維持する安定性仮定の下では、「double transfer paradox(供与国の利得化と受取国の貧困化の同時発生)」は不可能であることが含意される。一方で、受取国は一定条件下でimmiserization(貧困化)を被り得る。具体的には、関税が十分に高い(論文中では (t>t_{alpha}) と表される閾値を超える)こと、かつ関税対象財 (X) が供与国にとって劣等財である場合に、受取国の貧困化の十分条件が示される。さらに本論文は、移転によって両国がともに厚生増加することは不可能である、という系(corollary)も導く。より広く言えば、受取国の正の関税が存在する環境では、移転によるdonor enrichmentを許すような「必要十分条件」は存在しないと結論づけ、BBHが提示した必要条件の主張の解釈をより明確化し、修正している。
- 方法論:
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著者は、供与国 (alpha) と受取国 (beta) からなる2国2財の一般均衡貿易モデルを用いる。非numeraire(基準財でない)財は (X)、numeraire(基準財)は (Y) である。供与国は基準財 (Y) を (Tge 0) だけ受取国へ移転し、受取国は (X) の輸入に対してspecific tariff(従量関税) (tge 0) を課す。供与国が (X) を輸出し、受取国が (X) を輸入することを、輸入需要の符号 (m_{alpha}<0)、(m_{beta}>0) により表し、関税収入は (tm_{beta}) である。関税収入と対外援助(foreign aid)は、消費者へlump-sum(一括)で再配分される。分析は、貿易支出(overspending)関数 (E^{i})(支出から収入を差し引いたもの)と、標準的な均衡条件(各国の予算制約と世界市場の需給一致(貿易収支均衡))に基づいて行う。比較静学は、(t) を固定したまま (T) に関して体系を全微分し、Cramer’s rule(クラメルの公式)などの手法で厚生と価格の変化を解くことで得られる。結果は、明示された安定性要件の下で導かれる。すなわち、世界市場に対するWalrasian安定性と、各国の貿易量調整に関するVanek–Bhagwati–Kempの安定条件、さらに必要に応じて劣等性の仮定(例:片方または両国で (X) が劣等財)を併用する。
- 結論と意義:
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本論文は、関税に基づくtransfer paradox研究の一般的な理解とは異なり、受取国関税の存在がこの2国設定におけるdonor enrichmentの可能性を開くわけではない、と結論づける。BBHがパラドックス的な厚生変動の必要条件として強調したように、輸入財が劣等財であったとしても、受取国が正の関税を課している場合にdonor enrichmentを生むには不十分であり、むしろdonor enrichmentは全面的に排除される。意義は二つある。第一に、しばしば引用される必要条件(関税対象の輸入財の劣等性)が、受取国関税の下でdonor enrichmentの可能性へは結び付かないことを示し、先行条件の論理的位置づけを精緻化した点である。第二に、供与国と受取国の結果を切り分けた点である。供与国の厚生反応は明確(低下)である一方、受取国は関税が十分に高く、かつ供与国に関して関連する劣等性条件が満たされると貧困化しうるため、「受取国のみ」のパラドックスが生じ得る。本稿の再定式化は、移転が両国を同時により豊かにすることはモデル上不可能である、というより広い含意も支持する。
- 今後の展望:
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本論文は、分析全体を通じて関税が外生的に与えられていることを明示している。拡張として、受取国が (t) を固定的に受け取るのではなく最適関税(optimal tariff)を選ぶ場合に、transfer paradoxの結果が生じるかどうかを検討することを提案する。この方向性は、主要結果が関税水準(受取国貧困化の閾値条件 (t>t_{alpha}) を含む)に依存するという本論文自身の論理に照らして重要であり、関税選択を内生化することで到達可能な均衡と厚生比較の集合が変わり得る。したがって著者は、最適関税分析を、donor enrichment不可能という結果と、受取国貧困化が条件付きで可能であるという結果の頑健性および政策的含意を検証するための自然な次の一歩として位置づけている。
- 背景と目的:
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この論文は、国際貿易の理論で知られている
(移転のパラドックス)をもう一度くわしく調べ直します。transfer paradoxとは、ある国が他の国にお金や財を渡したのに、渡した国のほうが得をしたり、受け取った国のほうが損をしたりする、といった直感に反する結果のことです。transfer paradox ( ある国が他国に援助や賠償などの移転をしたのに、渡した国の生活の豊かさが上がったり、受け取った国の生活の豊かさが下がったりする、直感に反する結果のことです。援助政策や国際的な支払いが本当に役に立つのかを考えるうえで重要です。)
これまでの研究では、自由貿易で市場が安定している標準的なモデルだと、このパラドックスは起きないと考えられてきました。一方で、 のように貿易をゆがめる仕組みがあると、パラドックスが起きうるとも言われてきました。関税 ( 外国から入ってくる財にかける税金です。輸入品の国内価格を上げ、貿易の量や各国の利益配分を変えるため、移転の効果にも影響します。)
ただし先行研究(BBH)は「起きるために必要な条件」を示しただけで、「どんなときに確実に起きるのか」という十分な説明にはなっていない、と著者は考えます。そこで本論文は、受け取る国が関税をかけている2国モデルで、特に (供与国の利得化)が本当に起こりうるのかを、十分条件まで含めてはっきりさせることを目的にしています。donor enrichment ( 移転をした供与国の厚生が、移転後に上がってしまう現象です。普通は援助した側は損をしそうなので、もし起これば大きな逆転現象になります。)
- 主要な発見:
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この論文の中心的な結論は、受け取る国が
をかけている状況では、関税 ( 外国から入ってくる財にかける税金です。輸入品の国内価格を上げ、貿易の量や各国の利益配分を変えるため、移転の効果にも影響します。) は起こらないということです。つまり、受け取る国が関税をかけていて、しかも輸入財がdonor enrichment ( 移転をした供与国の厚生が、移転後に上がってしまう現象です。普通は援助した側は損をしそうなので、もし起これば大きな逆転現象になります。) である場合でも、移転をすると供与国の得(厚生)は必ず下がります。劣等財 ( 所得が増えると、消費量が減る財のことです。安い代替品のように、豊かになると買わなくなるものが例として考えられます。モデルではパラドックスが起きるかどうかに関わる重要な性質です。)
その結果として、供与国が得をして受取国が損をする は、このモデルでは起きません。double transfer paradox ( 供与国の利得化と受取国の貧困化が同時に起きる状況です。本論文は、受取国が関税をかける設定ではこれは起きないと示します。)
ただし、受取国が損をする( )ことは条件つきで起こりえます。具体的には、受取国の関税が十分高いこと(論文では閾値を超えて (t>t_{alpha}) となること)に加えて、関税をかけている財 (X) が供与国にとって劣等財である場合に、受取国が貧しくなるための十分条件が示されます。immiserization ( 移転を受け取った国の厚生が、かえって下がってしまう現象です。援助が常に受け手の利益になるとは限らないことを示す点で重要です。)
また、移転によって両国が同時に得をすることは、この設定では不可能だという結論も導かれます。
- 方法論:
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著者は、2国2財の
を使います。国は供与国 (alpha) と受取国 (beta) の2つ、財は (X) と (Y) の2つです。(Y) は基準財(一般均衡モデル ( ある市場だけでなく、複数の市場が同時につり合う状態をまとめて分析するモデルです。貿易では価格や所得が連動するため、この考え方が重要です。) )として扱い、供与国が (Y) を (Tge 0) だけ受取国へ移転します。numeraire ( 価格を測る基準にする財のことです。その財の国内価格を1に固定するなどして、相対的な価格(どちらがどれだけ高いか)を分析しやすくします。)
受取国は財 (X) の輸入に対して (tge 0) をかけます。供与国は (X) を輸出し、受取国は (X) を輸入する状況を想定します。従量関税 ( 輸入品の値段に比例させるのではなく、数量あたりで一定額を課す関税です。たとえば1個につき何円、1トンにつき何円のような形です。) 収入や援助は、国内の消費者に一括で配られるとします。関税 ( 外国から入ってくる財にかける税金です。輸入品の国内価格を上げ、貿易の量や各国の利益配分を変えるため、移転の効果にも影響します。)
分析では、貿易支出(overspending)関数などを使って、均衡条件(各国の予算のつり合い、世界全体での需給のつり合い)を立てます。そして、関税率 (t) は固定したまま、移転額 (T) を少し動かしたときに、価格や各国の厚生がどう変わるかを数式で追いかけます。結果を出すために、市場が安定的に調整されるという仮定( など)も置きます。Walrasian安定性 ( 価格が少しずれても、需要と供給のずれに応じて価格が動き、最終的に市場が均衡へ戻るという安定性の仮定です。モデルの結論が成り立つための前提になります。)
- 結論と意義:
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この論文は、「
があるなら関税 ( 外国から入ってくる財にかける税金です。輸入品の国内価格を上げ、貿易の量や各国の利益配分を変えるため、移転の効果にも影響します。) が起きやすい」という一般的なイメージに対して、少なくともこの2国モデルでは、受取国が関税をかけていてもtransfer paradox ( ある国が他国に援助や賠償などの移転をしたのに、渡した国の生活の豊かさが上がったり、受け取った国の生活の豊かさが下がったりする、直感に反する結果のことです。援助政策や国際的な支払いが本当に役に立つのかを考えるうえで重要です。) は起こらないと結論づけます。donor enrichment ( 移転をした供与国の厚生が、移転後に上がってしまう現象です。普通は援助した側は損をしそうなので、もし起これば大きな逆転現象になります。)
つまり、BBHが「必要条件」として強調した輸入財の劣等性が成り立っても、それだけではdonor enrichmentは生まれず、この設定では供与国が得をする可能性は完全に排除されます。
意義は主に2つです。第一に、「必要条件」と「実際に起こる条件(十分条件)」を整理し、先行研究の理解をより正確にしたことです。第二に、供与国と受取国の結果を分けて示したことです。供与国は必ず損をする一方、受取国は関税が十分高いなどの条件によっては損をする可能性があり、「受取国だけがパラドックス的に損をする」ケースは起こりうると示します。
- 今後の展望:
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本論文では、
率 (t) は外から与えられて動かないもの(外生的)として扱っています。今後の課題として、受取国が自分にとって有利になるように関税を選ぶ関税 ( 外国から入ってくる財にかける税金です。輸入品の国内価格を上げ、貿易の量や各国の利益配分を変えるため、移転の効果にも影響します。) の状況を考えたときにも、同じ結論(最適関税 ( 自国の利益が最大になるように関税率を選ぶという考え方です。本論文は関税を固定しているため、次の研究として最適関税の場合に結果が変わるかを検討する必要があるとします。) は不可能、受取国の貧困化は条件つきで可能)が成り立つかを調べる必要があると述べています。donor enrichment ( 移転をした供与国の厚生が、移転後に上がってしまう現象です。普通は援助した側は損をしそうなので、もし起これば大きな逆転現象になります。)
- 何のために?:
-
この文は、国どうしの
のお話です。貿易 ( 国と国が物を売ったり買ったりすることです。国の間でお金や物がどう動くかを考えるときに大切です)
国が、ほかの国にお金や物をあげます。
でも、あげた国が得 をすることがあります。
もらった国が、損 をすることもあります。
これを「 」と考えます。移転 のふしぎ( 国が相手にお金や物をあげたのにあげた国が得 をすることがあるという考え方です。直感と逆 なので何が起きるか確 かめる必要 があります)
昔の考えでは、ふつうは起きないです。
でも、 があると起きると言われます。関税 ( 外国から物を入れるときに国がかける税金 です。物の値 だんや買う量 が変 わり国どうしの得 や損 に影響 します)
関税 は、 にかかる輸入 ( 外国から物を買って国の中に入れることです。関税 はこの輸入 にかかるので話の中心になります) のことです。税金 ( 国がみんなから集めて使うお金です。関税 も税金 の一つで集めたお金の使い方でくらしが変 わります)
この文は、本当に起きるかを調べます。
とくに、あげた国が得 するかを見ます。
- 何が分かったの?:
-
結 ろんは、あげた国は得 をしません。
相手の国が をかけても同じです。関税 ( 外国から物を入れるときに国がかける税金 です。物の値 だんや買う量 が変 わり国どうしの得 や損 に影響 します)
あげると、あげた国のくらしは下がります。
だから、両方が逆 に動くふしぎは起きません。
ただし、もらう国が損 することはあります。
それは、関税 がとても高いときです。
さらに、ある物が大事でない国だと起きます。
また、両方が同時に得 するのも無理 です。
- どうやったの?:
-
国は2つ、物も2つで考えます。
あげる国と、もらう国があります。
物はXとYの2つです。
あげる国は、Yを少しわたします。
もらう国は、Xを買うとき をかけます。関税 ( 外国から物を入れるときに国がかける税金 です。物の値 だんや買う量 が変 わり国どうしの得 や損 に影響 します)
あげる国はXを売り、相手はXを買います。
関税 のお金は、国の人にまとめて配ります。
あげる量 を少し変 えて、どう動くか見ます。
値 だんや、くらしの良 さを数で調べます。
がうまく落ちつくと決めて考えます。市場 ( 売る人と買う人が集まって値 だんや売り買いが決まる場のことです。市場の動きで国の得 や損 が決まります)
- 研究のまとめ:
-
があると、ふしぎが起きると言われます。関税 ( 外国から物を入れるときに国がかける税金 です。物の値 だんや買う量 が変 わり国どうしの得 や損 に影響 します)
でも、この形の話では起きません。
あげた国が得 をすることはありません。
大事でない物でも、得 にはなりません。
大切なのは、起きる をはっきりさせた点です。条件 ( あることが起きるために必要 な決まりや状況 です。どんなときに損 や得 が起きるかをはっきりさせるのに必要 です)
また、2つの国の結果 を分けて示 しました。
あげた国は必 ず損 をします。
もらう国は、条件 しだいで損 をします。
「もらう国だけ損 」の形はありえます。
- これからどうする?:
-
この文では、
の高さは動かしません。関税 ( 外国から物を入れるときに国がかける税金 です。物の値 だんや買う量 が変 わり国どうしの得 や損 に影響 します)
でも、本当は国が関税 を選 ぶかもしれません。
国が一番得 する関税 を選 ぶ場合も調べます。
それでも同じ結 ろんか、確 かめる必要 があります。
- 著者名:
- Hamada Kojun
- 掲載誌名:
- 新潟大学経済学年報
- 巻:
- 32
- ページ:
- 1 - 11
- 発行日:
- 2008-02
- 新潟大学学術リポジトリリンク:
- http://hdl.handle.net/10191/25681
