平曲における「揃物／カタロゴス」 : 古代ギリシアの叙事詩との比較から (プロジェクト特集号 : 〈声〉とテクスト論)

背景と目的：

古代から現代に至るまで、神話や伝説を楽器演奏と共に語る文化は、東西を問わず広く見られる。古代ギリシアの叙事詩や日本の平曲などがその典型例である。しかし、これらの物語は成立当時と現在とでは享受の仕方が大きく異なっている。現代では、これらの物語は主に読むものとされ、語りや聴くことは伝統芸能として保存されるべきものと見なされることが多い。本論文は、古代ギリシアの吟遊詩人に焦点を当て、彼らが如何にして「賢者」として尊ばれ、社会的影響力を持っていたのかを探る。

主要な発見：

古代ギリシアにおいて、吟遊詩人は単に娯楽を提供する存在ではなく、第一に「賢者」として尊ばれていた。彼らは未来を予見する者としての側面も持ち、「かつてあったこと、今あること、これからあるであろうこと」を語る知識を有していた。例えば、アテネのソロンがホメーロスの叙事詩を引用してサラミス島の領有権を主張した逸話は、吟遊詩人の叙事詩が実際の政治的判断においても尊重されていたことを示している。ホメーロスとヘーシオドスの歌競べの逸話も、叙事詩が社会的倫理観や価値観を反映していたことを示している。

方法論：

本論文では、古代ギリシアの叙事詩とその語り手である吟遊詩人に関する伝説的逸話を詳述し、それを基に吟遊詩人がどのように「賢者」としての地位を確立していたのかを論じている。また、叙事詩の記述スタイルや内容に注目し、ホメーロスとヘーシオドスの作品の比較を通じて、両者の叙事詩が持つ社会的役割や影響力を考察している。さらに、日本の『平家物語』とその語り物である平曲における「揃物」の存在を検討し、古代ギリシアの叙事詩との類似点を見出している。

結論と意義：

本論文は、古代ギリシアの吟遊詩人が「賢者」として社会的影響力を持っていたという視点を強調している。彼らの叙事詩は、単なる娯楽ではなく、社会的倫理や価値観を反映し、実際の政治的判断に影響を与えるものであった。このような視点から、現代においても語り物の持つ意義を再評価する必要があると論じている。また、「揃物」という形式が、物語の中で重要な情報を強調し、聴衆の理解を助ける機能を果たしていることを示し、平曲の語り物としての価値を再確認している。

今後の展望：

今後の研究では、古代ギリシアの吟遊詩人の社会的役割や影響力について、さらに具体的な証拠を集めて分析する必要がある。また、他の文化圏における語り物の形式や機能についても比較研究を行い、共通点や相違点を明らかにすることが求められる。さらに、現代においても伝統的な語り物がどのように継承され、再評価されるべきかについての議論を深めることが重要である。これにより、語り物の文化的価値を現代社会においても再認識し、保存・活用するための具体的な方策が見出されることが期待される。