デジタルアーカイブで、街を語る主体を取りもどす（大学連携シンポジウム）

背景と目的：

本論文では、港北ニュータウンを中心に、デジタルアーカイブを通じた市民参加型の街の記憶の保存と活用について考察しています。ニュータウンは高度経済成長期に都市の過密化や人口増加に伴う乱開発への対策として計画的に開発された地域であり、港北ニュータウンもその一例です。しかし、画一的で個性がないと批判されることが多いニュータウンに対して、港北ニュータウンでは独自の歴史や特色があると筆者は述べています。この地域の記憶と歴史を住民と共に保存し、未来に活かしていくことが目的です。

主要な発見：

港北ニュータウンでは、住民参加型の街づくりが進められており、その結果、地域独自の文化や歴史が継承されています。例えば、虫送りの年中行事などは新旧住民が一体となって行っており、地域の一体感が生まれています。また、港北ニュータウン記念協会のような組織が街の記録を残す活動を行っており、新住民も多数参加しています。これにより、全国でも初めて大規模な申出換地が行われるなど、大規模開発のモデルケースとして注目されています。

方法論：

デジタルアーカイブの活用が地域の記憶の保存において重要な役割を果たしています。市民が主体となって地域情報を収集し、インターネットを通じて共有していく活動が行われています。例えば「みんなでつくる横濱写真アルバム」では、オンライン投稿だけでなく、スタッフが市内企業や個人に働きかけて写真を提供してもらったり、イベントを開催して写真を収集したりしています。このような対面的なコミュニケーションを通じて、地域住民との信頼関係を築きながらアーカイブを進めています。

結論と意義：

港北ニュータウンの事例を通じて、街の記憶は住民の実践と深く結びついて形成されるものであることが示されました。デジタルアーカイブを活用することで、市民一人ひとりが「街の記憶」を語る主体となり、その価値を自ら判断して共有することができます。このような市民参加型のアーカイブ活動は、地域の文化や歴史の保存だけでなく、地域コミュニティの強化にも寄与します。これにより、画一的と批判されがちなニュータウンにも独自の個性と歴史があることが再認識されました。

今後の展望：

今後は、デジタルアーカイブ活動がさらに広がり、地域住民の参加が増えることで、より多様な「街の記憶」が保存されることが期待されています。また、アーカイブ活動自体が進化し続け、公的アーカイブとは異なる市民主体の活動として、他の街づくりや地域活性化のプロジェクトと連動していくことが重要です。これにより、地域の歴史と文化がより豊かに保存され、次世代へと受け継がれていくでしょう。