日高変成帯,最下部トーナル岩マグマの冷却プロセス(<特集>日高衝突帯研究の最近の進歩(1)-その深部過程と上昇過程)

背景と目的：

本研究は、マグマが地殻内でどのように冷却し、結晶作用を進行させるかを明らかにすることを目的としています。特に、マグマが浮力により上昇する場合と、地殻の衝上運動に伴ってシンテクトニックに進行する場合の違いについて考察します。北海道の日高変成帯に存在するトーナル岩類を対象に、冷却プロセスを示す産状を解析し、地殻の運動との関連性を検討します。この地域は、中新世に急激に衝上したと考えられるため、研究に適しています。

主要な発見：

本研究では、日高変成帯の最下部トーナル岩体の冷却プロセスを明らかにしました。具体的には、鉱物の包有関係と組成累帯構造の検討を通じて、トーナル岩体の鉱物の晶出順序が明らかになりました。この晶出順序から、マグマが冷却する際の圧力条件や温度条件を推定することができました。また、斜方輝石の分解反応や優白質岩脈の形成など、冷却過程に関連する複数の現象も確認されました。これにより、地殻の浮上過程やマグマの上昇プロセスが具体的に解明されました。

方法論：

本研究では、日高変成帯の新冠川上流地域の最下部トーナル岩体を対象に、鉱物の包有関係や組成累帯構造を詳細に解析しました。また、天然の最下部S一タイプトーナル岩を出発物質として高温高圧実験を行い、この順序の結晶作用が起こる条件を再現しました。さらに、冷却プロセスを示す産状を観察し、圧力-温度-時間経路（P-T-t経路）を考察しました。これにより、マグマの発生から冷却に至るプロセスを詳細に解析しました。

結論と意義：

本研究の結果、最下部トーナル岩体の冷却P-T-t経路は蛇行する特徴的な経路を描くことが明らかになりました。この経路は、トーナル岩マグマがシンテクトニックに迸入しながら地殻が上昇してきたプロセスを反映しています。また、最下部地殻のP-T-t経路の推定により、火成活動終了後に最下部地殻がザクロ石グラニュライト相〜エクロジャイト相岩石に転移した可能性が示唆されました。これらの発見は、地殻の衝上運動とマグマの上昇プロセスを理解する上で重要な知見を提供します。

今後の展望：

今後の研究では、日高変成帯の他の地域や異なる深度におけるトーナル岩体の冷却プロセスを詳細に解析することが求められます。また、地殻の衝上運動とマグマの結晶作用の関係をより具体的に解明するために、他の変成帯や火成岩体との比較研究も有益です。さらに、地殻規模のデュープレックス構造の形成メカニズムやそれに伴う変成作用についても、さらなる実験的および理論的研究が必要です。これにより、地球内部の動態や地殻変動のメカニズムに対する理解が深まることが期待されます。