原発災害により長期に避難する壮年期男性の睡眠とストレス，その生活に関する研究

東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故（以下、原発災害）から5年以上が経過しても、多くの人々が避難生活を余儀なくされている。これほど多くの人々が異なる風土の地で長期の避難生活を送る例はこれまでになく、避難生活が被災者の睡眠や心身の健康にどのような影響を与えるかは明らかにされていない。特に壮年期男性は地域社会や家庭において中心的な役割を担っており、そのストレスが高いことが指摘されている。本研究では、原発災害による長期避難を余儀なくされた壮年期男性の睡眠とストレスの実態を、生理学的および心理的評価を通して把握するとともに、彼らの生活の状況や体験・思いを明らかにすることを目的とした。

原発災害により長期に避難する壮年期男性の睡眠は、生理学的評価において仮設住宅居住時と復興住宅居住時で有意な変化は認められなかったが、主観的評価では復興住宅居住時において睡眠状態が有意に悪化していることが明らかになった。また、ストレスに関しても生理学的評価では有意な変化は見られなかったが、心理的評価では復興住宅居住時に有意に悪化していたことが示された。これらの結果から、復興住宅への転居に伴うコミュニティの変化や避難指示の解除による新たな生活の決断などが心理的ストレスと主観的睡眠に影響を与えていることが示唆された。

本研究は混合研究法説明的順次デザインを用いて行われ、まず睡眠とストレスに関する量的データを収集・分析し、その後生活の状況に関する質的データを収集・分析した。量的データ収集には、Actigraph、唾液ストレスバイオマーカー、ピッツバーグ睡眠調査票日本語版、精神健康調査票および健康関連QOL尺度を用いて調査を行い、対応のあるサンプルのｔ検定やpearsonの積率相関係数を用いて分析を行った。質的データ収集には半構造化面接を用いてデータ収集し、修正版グラウンデッド・セオリーアプローチを用いて分析した。対象は5年以上の避難生活を送る壮年期男性10名で、データ収集期間は2015年11月から2018年2月であった。

原発災害により長期の避難生活を送る壮年期男性は、生理学的な睡眠状態には有意な変化が見られなかったが、主観的な睡眠状態および心理的なストレス状態が復興住宅転居後に悪化していることが明らかになった。その背景には、長期の仮設住宅生活から復興住宅への転居によるコミュニティの変化や、避難指示の解除による新たな決断を迫られる状況があることが示された。本研究の結果は、長期避難生活を送る被災者の健康支援や生活支援のあり方を検討するための基礎的な資料となり、今後の災害看護や復興支援において重要な意義を持つ。

今後は、引き続き長期避難生活を送る被災者の睡眠とストレスの経時的な変化を把握し、生活再建のプロセスを明らかにすることが求められる。また、被災者の個別の状況に寄り添った支援の提供が重要であると考えられ、行政や地域コミュニティとの連携を強化して、被災者が安心して生活再建できる環境を整備することが必要である。さらに、長期的な避難生活の影響を受ける他の被災者層（高齢者、子供、女性など）に関する研究も進めるべきであり、総合的な支援策の構築が求められる。

2011年の東日本大震災で起こった福島第一原子力発電所の事故から5年以上が経過しても、多くの人々が避難生活を続けています。特に働き盛りの男性は、家族や地域社会の中心として多くのストレスを抱えています。本研究では、こうした男性たちの睡眠やストレスの実態を調べるとともに、彼らの生活や体験を明らかにすることを目的としています。

避難生活を送る男性たちの睡眠について、生理学的な評価では仮設住宅と復興住宅で大きな変化はありませんでしたが、主観的な評価では復興住宅に移った後に睡眠の質が悪化していることが分かりました。また、ストレスに関しても生理学的な評価では大きな変化は見られませんでしたが、心理的な評価ではストレスが増加していることが明らかになりました。これらの結果から、復興住宅への移転や新たな決断が心理的なストレスや睡眠の質に影響を与えていることが示唆されました。

本研究では、まず生理学的および心理的評価を通じて量的データを収集し、その後半構造化面接を通じて質的データを収集しました。具体的には、Actigraph(腕時計のように手首に装着して使う装置で、体の動きを記録することで睡眠の状態を測定します。これにより、実際にどれくらいの時間眠っているかや、睡眠の質を客観的に評価することができます。)という装置を使って睡眠を計測し、唾液サンプルからストレスバイオマーカー(体内でストレスがどれくらいかかっているかを示す指標です。唾液中に含まれる特定の物質（例えばコルチゾールなど）を測定することで、ストレスのレベルを評価することができます。)を測定しました。また、睡眠と精神健康を評価するための質問票も使用しました。調査対象は、5年以上の避難生活を送る壮年期男性10名で、データ収集は2015年11月から2018年2月にかけて行いました。

長期の避難生活を送る男性たちは、生理学的な評価では大きな変化が見られなかったものの、主観的な睡眠の質や心理的なストレスが復興住宅に移った後に悪化していることが分かりました。これには、コミュニティの変化や新たな生活の決断が関わっていると考えられます。これらの結果は、被災者の健康支援や生活支援のあり方を考える上で重要な資料となります。

今後は、避難生活を続ける人々の睡眠やストレスの変化を継続的に追跡し、生活再建のプロセスを明らかにすることが重要です。また、被災者一人ひとりの状況に寄り添った支援が必要であるため、行政や地域コミュニティとの連携を強化していくことが求められます。さらに、高齢者や子供、女性など他の被災者層についても研究を進め、総合的な支援策を構築することが重要です。