論文詳細

医歯学系 大学院医歯学総合研究科(医) #学位論文

脳虚血に対する成長因子プログラニュリンの神経保護メカニズムの検討

AI解説:
脳血管障害(脳の血管に異常が起こる病気のことです。脳梗塞や脳出血などがあります。)は日本で多くの人が亡くなる原因の一つで、脳梗塞の後遺症で多くの人が介護を必要としています。現在、脳梗塞の急性期に使われる治療薬は血栓溶解薬のt-PAだけですが、使える時間が限られていて、適用される患者も少ないです。そのため、新しい治療法の開発が求められています。この研究では、多面的な脳保護作用を持つプログラニュリン(PGRN)(神経細胞を保護する働きがある成長因子です。多面的な作用を持っています。)という物質が注目されています。PGRNがTDP-43(神経細胞の中にあるタンパク質で、異常が起こると神経細胞が損傷します。)というタンパク質の異常を抑えることで、脳梗塞による神経細胞の損傷を防ぐという仮説を立てて検証しました。
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著者名:
鳥谷部 真史
発行日:
2016-09-20
著者による要約:
【序文】プログラニュリン(PGRN)は神経栄養活性を有する成長因子である.PGRN遺伝子変異は,核蛋白TARDNA結合蛋白-43(TDP-43)が神経細胞内に蓄積する前頭側頭型変性症を引き起こすことが知られている.脳虚血に関しても,ラット血栓塞栓モデルにて,血栓溶解薬組織プラスミノーゲンアクティベーター(t-PA)と組み替えPGRN蛋白の併用投与は,脳梗塞体積の減少,出血量の減少をもたらしPGRNが神経細胞を含む多面的な脳保護作用を有することが明らかになった. しかしPGRNによる神経細胞保護作用の機序と,TDP-43への影響については十分には明らかにされていない.今回,PGRNがTDP-43の限定分解および細胞質内異常局在を抑制することで, 虚血性神経細胞障害に対し保護作用を示すという仮説を立て, 検証を行った.【材料と方法】PGRNノックアウトマウスと,野生型マウスの一過性脳虚血モデルにおいて,虚血24時間後のTDP-43の細胞内局在を免疫染色にて比較した。次にラット血栓塞栓モデルにて,虚血4時間後に血栓溶解薬(t-PA)と組み換えマウスPGRNないし対照蛋白(IgG)の静注を行い,虚血24時間後に免疫プロットにて活性型カスパーゼ-3,全長型および切断されたTDP-43の発現の比較を行った。さらに種の異なる,組み換えヒトPGRN投与による脳梗塞抑制効果について,ラット血栓塞栓モデルを用いて検討を行った。【結果】PGRNノックアウトマウスでは,野生型と比較して,虚血後のTDP-43の細胞質内異常局在を認める神経細胞の頻度が多かった(P<0.001).また血栓塞栓モデルではPGRN投与群は対照群と比して,全長型TDP-43の虚血後の減少は抑制された(P<0.05).さらに活性型カスパーゼ-3発現が抑制された(P<0.05)。ラット血栓塞栓モデルにおいてヒト組み換えPGRN投与は,対照群と比較して,脳梗塞体積を縮小した(P<0.05).【考察】脳虚血に対するPGRNの神経細胞保護作用の機序としてはカスパーゼ-3活性化を抑制し,TDP-43の限定分解およびTDP-43の異常細胞質内局在を抑制し,TDP-43の機能を保つことが関与する可能性が示唆された。
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