モンゴルにおける乳製品の需要と供給

モンゴルは大国ロシアと中国に接する内陸国であり、広大な国土と豊富な家畜を持つことから伝統的に畜産業が主要産業として発展してきました。しかし、1990年の市場経済への移行以降、国営の畜産業や乳製品産業が民営化された結果、資本や技術力の不足により国内生乳の供給が減少し、需給不均衡が生じました。本論文の目的は、モンゴルにおける牛乳と乳製品の供給体制と需要動向を概観し、都市の食生活における消費構造の変化を考察することです。また、「民営化・私有化」がモンゴルの社会や伝統的な畜産業にどのような影響を与えたかを明らかにすることも目的としています。

モンゴルの乳製品産業は、1990年の市場経済への移行以降、大きな変動を経験しました。特にネグデル（畜産業協同組合）の解体により、家畜や畜産品の流通システムが崩壊し、家畜の数は増加したものの、畜産業従事者の平均収入は低い水準にあります。また、首都ウラーンバートルにおける生乳の供給不足が顕著であり、国産原料の乳製品の供給が需要に追いつかない状況が続いています。この需給不均衡は、輸入粉乳で補う形となっており、乳製品市場での国産生乳の加工量が減少しています。

本論文では、モンゴル国家統計局の統計データを基に、モンゴルの畜産業と乳製品産業の歴史的背景と現状を詳細に分析しています。特に、1990年以前の社会主義時代と1990年以後の市場経済時代に分けて、遊牧民の生活やモンゴル社会の変遷を検討しました。また、首都ウラーンバートルにおける牛乳と乳製品の需給不均衡についても考察し、現在の生乳供給の課題を明らかにするために、国内外の輸入状況や技術的問題も分析しています。

モンゴルの社会経済体制の移行は、牧畜民の生活に対して大きな影響を与えました。特に、供給サイドでは国営企業の民営化やネグデルの解体が乳製品の供給に影響を及ぼし、需要サイドでは首都ウラーンバートルへの人口集中が乳製品の需要を急増させました。また、技術や輸送インフラの不足により、生乳の供給が不安定となり、首都での供給不足が顕著です。これに対し、政府は「国家ミルク計画」を策定し、乳製品の供給量と質の向上を目指す取り組みを行っていますが、依然として課題は山積しています。

モンゴルの乳製品産業を改善するためには、技術や輸送インフラの整備が不可欠です。特に、首都ウラーンバートルへの生乳供給を安定させるために、牧畜民と乳製品工場を結ぶ効率的な流通システムの構築が求められます。また、政府は純粋種牛の輸入や酪農家組合の増加を推進し、国内生乳の生産量を増加させる必要があります。筆者は今後、社会主義時代の状況を再度研究し、将来の畜産業と乳製品産業の発展・成長を取り戻すための具体的な施策を考察していく予定です。