論文詳細
大学院現代社会文化研究科
#紀要論文
Two Types of QP and Scrambling
- AI解説:
- 本論文は、日本語のscrambling(語順入れ替え)が任意ではなく、T上の「topic probe」によって引き起こされる、[Spec, TP]への特徴駆動型のA-movementであるというMiyagawa(2010)の提案を再検討する。Miyagawaの分析では、Tのprobeが主語または目的語のいずれかをgoalとして選べるため、主語が[Spec, TP]へ移動すればSOV、目的語がそこへ移動すればOSVが生じる。主要な根拠は、主語の量化子(quantifier)と否定のスコープ相互作用である。Hommaの中心的な問題意識は、Miyagawaの体系が過剰生成(overgenerate)しているように見える点にある。すなわち、原理的にTが異なるDPをtargetできるなら、適切な談話条件の下では、scramblingされたどのDPも[Spec, TP]を占め得るはずだと予想されてしまう。そこで本論文は、実際にprobeのgoalとなり得るDPはどれかを、日本語のquantified noun phrases(QPs)に焦点を当てて問う。目的は、(i) よく知られた2種類のQPの構造タイプのうち、[Spec, TP]への移動ターゲットになり得るように振る舞うのは一方だけであることを示すこと、(ii) QPが当該のtopic featureを担える条件について統語的条件を提案すること、(iii) その条件はQPの意味論だけには還元できないと論じることである。
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大学院現代社会文化研究科
#紀要論文
Two Types of QP and Scrambling
AI解説
- 背景と目的:
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本論文は、日本語のscrambling(語順入れ替え)が任意ではなく、T上の「topic probe」によって引き起こされる、[Spec, TP]への特徴駆動型のA-movementであるというMiyagawa(2010)の提案を再検討する。Miyagawaの分析では、Tのprobeが主語または目的語のいずれかをgoalとして選べるため、主語が[Spec, TP]へ移動すればSOV、目的語がそこへ移動すればOSVが生じる。主要な根拠は、主語の量化子(quantifier)と否定のスコープ相互作用である。Hommaの中心的な問題意識は、Miyagawaの体系が過剰生成(overgenerate)しているように見える点にある。すなわち、原理的にTが異なるDPをtargetできるなら、適切な談話条件の下では、scramblingされたどのDPも[Spec, TP]を占め得るはずだと予想されてしまう。そこで本論文は、実際にprobeのgoalとなり得るDPはどれかを、日本語のquantified noun phrases(QPs)に焦点を当てて問う。目的は、(i) よく知られた2種類のQPの構造タイプのうち、[Spec, TP]への移動ターゲットになり得るように振る舞うのは一方だけであることを示すこと、(ii) QPが当該のtopic featureを担える条件について統語的条件を提案すること、(iii) その条件はQPの意味論だけには還元できないと論じることである。
- 主要な発見:
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実証的中心は、scrambling下でのスコープ解釈の対照である。Miyagawaのパターンを再現しつつ、目的語をscrambleすると、主語量化子zen’in「全員」が否定の下で狭いスコープを取れる(すなわち「部分否定」解釈が可能になる)ことがある。これは、主語ではなく目的語が[Spec, TP]へ移動したことを診断するものとされる。Hommaは、この診断が、scrambleされた目的語QPの内部構造に敏感であることを示す。目的語QPが左端位置の前置名詞修飾のnumeral quantifierを含む場合(例:3-tu-no tesuto「3つのテスト」)、scramblingによって曖昧性が生じ得て、主語は否定より上にも下にもスコープを取り得る。しかし、目的語がfloating numeral quantifierを伴う場合(例:tesuto-o 3-tu「テストを3つ」)、scramblingをしても主語が狭いスコープを取る読みは生じず、文は主語が否定の上にスコープを取る解釈に固定される(曖昧ではない)。さらに、名詞修飾語が介在する場合に追加の制約が見いだされる。形容詞/形容動詞がnumeral quantifierに先行する場合(例:muzukasii 2-tu-no kamoku「難しい2つの科目」)には、scramblingは再び主語の狭スコープ読みを阻止する。一方、numeralが修飾語に先行する場合(例:2-tu-no muzukasii-kamoku)ではこの阻止は起きない。これらのパターンから、DPの左端に量化子があるQPだけが、Tのtopic probeの適格なgoalとして振る舞う、という一般化が導かれる。さらに本論文は、これが単に前提性(presuppositionality)という意味論的効果ではないことも主張する。関係節で修飾されるとfloating quantifierをもつQPでも前提的に解釈され得るにもかかわらず、それでも[Spec, TP]への目的語移動に結び付けられるスコープ・パターンには従わないからである。
- 方法論:
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本研究は、日本語語順に関する精緻な受容性(acceptability)と解釈の対照に基づく、理論主導の統語分析である。Hommaは、(i) SOV対OSV、(ii) numeral quantifierの形態と位置(pre-nominalかfloatingか)、(iii) numeral quantifierと名詞修飾語の線形順序(quantifier-before-modifierかmodifier-before-quantifierか)を変える一方で、スコープを担う主語zen’inと否定は一定に保った、作例による最小対(minimal pairs)を用いる。主要な診断は、主語の全称と否定の間に2つのスコープ読みが可能かどうかであり、括弧内で「ambiguous」対「unambiguous」として、また∀>Neg対Neg>∀の形で明示的に報告される。これらの解釈判断はMiyagawaの構造仮定へ対応付けられる。すなわち、否定はTPとvPの間に置かれ、DPが[Spec, TP]へ移動することはc-command関係、ひいてはスコープに影響する。本論文はその後、topic featureのDP内部での起源に関する構造提案を導入し、どのQPがTによってattractされ得るかの予測を導出する。最後に、「トピック性を前提性に結び付ける」という代替的な意味論的一般化を、前提的読みが独立に促進される場合(とりわけ関係節による場合)と比較しつつ検討するが、それでもscramblingとスコープの相関が成立しないことを示す。
- 結論と意義:
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本論文は、Miyagawa(2010)の特徴駆動型scrambling分析には、Tのtopic probeのgoalとなり得るものに制限が必要だと結論する。すなわち、すべてのDPが、そして決定的にすべてのQPが、[Spec, TP]へ移動できるわけではない。Hommaの提案では、当該のtopic featureはDP内部にあり、D上に由来する。そしてDがこのfeatureを帯びる場合にのみ、量化子を[Spec, DP]へ引き上げ得る。[Spec, DP]を量化子が占めるQPは、その結果topic featureを担い、Tによってtargetされ得るため、目的語が[Spec, TP]へ移動でき、OSV配置では主語が否定の下で狭いスコープを取れるようになる。これに対し、[Spec, DP]に量化子を欠くQP—floating-quantifier構文や、(修飾語の配置から診断されるように)量化子が構造的により低い位置にある配置—はtopic featureを担えず、したがってTにtargetされない。この場合、主語が[Spec, TP]へ移動せざるを得ず、∀>Negのみが保持される。意義は二点ある。実証的には、scramblingとスコープの結び付きがDP内部統語に依存することを示し、この関係を精緻化する。理論的には、「topic」移動のライセンス条件を節統語(T上のprobe)だけでなく名詞句構造にも位置付け、さらに、その可否は前提性という意味論概念へは還元できないと論じる。なぜなら、前提的に解釈されるfloating-quantifier DPであっても、移動可能なトピカルなgoalのようには振る舞わないからである。
- 今後の展望:
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本論文は主張の中心をQPに明確に限定し、DP内部のtopic-feature分析が量化名詞句を超えてどこまで拡張できるかという問いを提起する。量化を伴わない目的語でも、scramblingの下で部分否定読みを許し得る(Miyagawaの原例のように)ことを指摘する一方で、その可否は、scrambleされた目的語が不定(indefinite)ではなく、談話連結(discourse-linked)/定(definite)として解釈されるかどうかに依存しているように見えるとも述べる。sono/anoのような指示詞(demonstratives)を加えて定性を強制すると、部分否定読みは容易に利用可能になる。Hommaは、指示詞が[Spec, DP]を占めるとすれば、非QPの定性もQPで用いたのと同じ「DP左端」という構造条件に整合すると示唆する。しかし同時に、未解決の問題も指摘される。裸の目的語siken-oは、[Spec, DP]に明示的な量化子や指示詞を欠くにもかかわらず、定解釈の下で部分否定読みを許し得るのである。これに対処するため、著者は、D上のtopic featureが、[Spec, DP]へ明示的要素を必ずしもattractしなくても、定性(および前提性)をもたらし得るという可能な拡張を概略提示する。これは解決済みの結果ではなく推測的方向性として提示されており、今後の研究では、同一のprobe–goalアーキテクチャのもとで、非量化DPにおける定性、トピック性、そしてDP内部の明示的移動がどのように相互作用するかを明らかにすべきだと述べる。
- 背景と目的:
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この論文は、日本語の語順入れ替え(
)が「話題(トピック)」に関わるしくみで起こるという、Miyagawa(2010)の考えをもう一度よく調べ直します。Miyagawaの考えでは、文の中心となる要素を見つけるしくみがscrambling ( 日本語で、目的語などを文の前の方に出して語順を変える現象です。ただの言い換えではなく、文の構造上の「移動」として扱われます。なぜ重要かというと、語順の違いが意味(特に否定との関係)に影響することがあるからです。) という場所にあり、主語がそこへ動くとSOV(主語 目的語 動詞)、目的語がそこへ動くとOSV(目的語 主語 動詞)になる、と説明します。T ( 統語理論で使う文の中心的な位置の名前で、時制や文の骨組みに関わる場所だと考えます。この論文では、Tが「トピック」を探して名詞句を引き上げる役割を持つとされ、語順や意味解釈に関係します。)
そして、その動きが本当に起きているかどうかは、「全員」などの量を表す言葉( )と否定(〜ない)の意味のかかり方(どちらが強く効くか)で確かめられる、とされてきました。量化子 ( 数や全体性など「どれくらいか」を表す言葉で、「3つ」「全員」などです。否定と一緒に出ると解釈が分かれるため、移動の診断に使われます。)
しかしHommaは、この説明だと「条件さえそろえば、どんな名詞句でもその位置に動けてしまう」ように見えて、実際よりも多くの語順を許してしまうのではないか、と問題を立てます。そこでこの論文は、特に量化を含む名詞句( )に注目し、Tのしくみが実際に選べる名詞句はどれかを調べます。目的は、次の3つです。QP ( 量化表現を含む名詞句のことで、「3つのテスト」「全員」などが例です。この論文では、QPの種類によってscrambling後の意味が変わることが重要になります。)
1つ目は、よく知られている2種類のQPのうち、片方だけがその移動先になれることを示すことです。2つ目は、QPが「トピックの特徴」を持てるための統語的な条件を提案することです。3つ目は、その条件は意味だけでは説明しきれないと述べることです。
- 主要な発見:
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中心となる結果は、目的語を前に出す
をしたときに、主語の「全員」と否定の意味のかかり方がどう変わるか、という点です。目的語を前に出すと、主語の「全員」が否定の影響を強く受ける読み(scrambling ( 日本語で、目的語などを文の前の方に出して語順を変える現象です。ただの言い換えではなく、文の構造上の「移動」として扱われます。なぜ重要かというと、語順の違いが意味(特に否定との関係)に影響することがあるからです。) の読み)が可能になることがあります。これは「目的語が部分否定 ( 否定が「全体を完全に否定する」のではなく、「全部がそうというわけではない」という意味になる読み方です。この論文では、部分否定が可能かどうかが、目的語が[Spec, TP]へ動いたかの手がかりになります。) へ動いた」と考える手がかりになるとされます。[Spec, TP] ( TPという部分の「指定部」と呼ばれる位置で、統語理論では主語が来やすい場所として扱われます。ここに主語がいるか目的語がいるかで、語順(SOVかOSVか)やスコープが変わると議論されます。)
Hommaは、この手がかりが、scrambleされた目的語 の中身の形に強く左右されることを示します。QP ( 量化表現を含む名詞句のことで、「3つのテスト」「全員」などが例です。この論文では、QPの種類によってscrambling後の意味が変わることが重要になります。)
まず、目的語QPが「3つのテスト」のように、名詞の前に数の表現がまとまって付く形(前置の数詞 )だと、scramblingによって解釈が2通りになり得ます。つまり、主語が否定より上に効く読みも、否定より下に効く読みも出ることがあります。量化子 ( 数や全体性など「どれくらいか」を表す言葉で、「3つ」「全員」などです。否定と一緒に出ると解釈が分かれるため、移動の診断に使われます。)
一方で、「テストを3つ」のように、数の表現が名詞から離れて出る形( )だと、scramblingしても部分否定の読みが出ず、解釈が1通りに固定されます。floating numeral quantifier ( 数詞量化子が名詞から離れて現れる形で、「テストを3つ」のような言い方です。このタイプは[Spec, TP]へ動けないことが多い、というのが論文の重要な主張です。)
さらに、形容詞などの修飾語が入る場合には追加の制約が見つかります。「難しい2つの科目」のように、修飾語が数の表現より先に来る並びだと、scramblingしても部分否定の読みが出にくくなります。しかし「2つの難しい科目」のように、数の表現が修飾語より先なら、その制約は起きません。
これらからHommaは、「名詞句のいちばん左端に量化子があるQPだけが、 のT ( 統語理論で使う文の中心的な位置の名前で、時制や文の骨組みに関わる場所だと考えます。この論文では、Tが「トピック」を探して名詞句を引き上げる役割を持つとされ、語順や意味解釈に関係します。) に選ばれて[Spec, TP]へ動ける」という一般化を導きます。topic probe ( Tにあると想定される「トピックになれる要素を探すしくみ」です。文の中から条件に合う名詞句を見つけ、その名詞句を特定の位置へ動かす引き金になると考えられます。)
また、この違いは単に「 (すでに話題に出ているものとして扱われる感じ)」の違いではない、と主張します。前提性 ( その名詞句が「すでに話の中にあるものの一部」として理解されやすい性質です。この論文では、トピック性を前提性だけで決める説明では足りないことが議論されます。) が付くと、floating quantifierを持つQPでも前提的に読めることがあるのに、それでも[Spec, TP]へ動いたときに期待される関係節 ( 名詞を詳しく説明する節で、「先生が勧めた本」の「先生が勧めた」の部分のようなものです。関係節があると、その名詞句が特定されやすくなり、前提的に読まれやすくなるとされます。) の変化が起きないからです。スコープ ( 否定や量化子などが、文の意味にどの範囲まで強く影響するかという関係です。「全員が〜ない」といった文が「誰も〜ない」なのか「全員というわけではない」なのかに関わります。)
- 方法論:
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この研究は、日本語の語順について「その文が自然か(
)」と「どういう意味に読めるか」を細かく比べながら、統語理論に基づいて説明する方法です。Hommaは、主語の「全員」と否定は固定したまま、次の点だけを入れ替えた文の組を作り、最小限の違いで比較します。受容性 ( その文が母語話者にとって自然に感じられるかどうかです。文法的に成り立つかだけでなく、言い方として許されるかを判断します。)
1つ目はSOVかOSVか、2つ目は数詞 が名詞の前にあるか(pre-nominal)名詞から離れているか(floating)です。3つ目は、数詞量化子と修飾語の順番(量化子が先か、修飾語が先か)です。量化子 ( 数や全体性など「どれくらいか」を表す言葉で、「3つ」「全員」などです。否定と一緒に出ると解釈が分かれるため、移動の診断に使われます。)
判断のポイントは、「全員」と否定の間で、意味のかかり方が2通り可能か(曖昧)それとも1通りだけか(非曖昧)です。これを、Miyagawaの想定する構造(否定の位置、 への移動、[Spec, TP] ( TPという部分の「指定部」と呼ばれる位置で、統語理論では主語が来やすい場所として扱われます。ここに主語がいるか目的語がいるかで、語順(SOVかOSVか)やスコープが変わると議論されます。) 関係)と結びつけて解釈します。そのうえで、トピックの特徴が名詞句の内部のどこから来るのかという提案を加え、どのc-command ( 統語構造の上下関係を表す考え方で、どちらの要素がもう一方に影響しやすいか(スコープなど)を決めるのに使います。) がQP ( 量化表現を含む名詞句のことで、「3つのテスト」「全員」などが例です。この論文では、QPの種類によってscrambling後の意味が変わることが重要になります。) に引き寄せられるかを説明します。最後に、「トピック性はT ( 統語理論で使う文の中心的な位置の名前で、時制や文の骨組みに関わる場所だと考えます。この論文では、Tが「トピック」を探して名詞句を引き上げる役割を持つとされ、語順や意味解釈に関係します。) で決まる」という意味中心の別案も比べますが、それでは説明できない例があることを示します。前提性 ( その名詞句が「すでに話の中にあるものの一部」として理解されやすい性質です。この論文では、トピック性を前提性だけで決める説明では足りないことが議論されます。)
- 結論と意義:
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結論として、Miyagawa(2010)の「
がトピックを探してT ( 統語理論で使う文の中心的な位置の名前で、時制や文の骨組みに関わる場所だと考えます。この論文では、Tが「トピック」を探して名詞句を引き上げる役割を持つとされ、語順や意味解釈に関係します。) へ動かす」という考えを保ちながらも、Tが選べる名詞句には制限が必要だと述べます。つまり、どんな[Spec, TP] ( TPという部分の「指定部」と呼ばれる位置で、統語理論では主語が来やすい場所として扱われます。ここに主語がいるか目的語がいるかで、語順(SOVかOSVか)やスコープが変わると議論されます。) でも、そして特にどんなDP ( 名詞句を表す統語上の単位で、「その本」「3冊の本」などをまとめて1つのかたまりとして扱います。Dという中心部分を持つ構造だと考えます。) でも、[Spec, TP]へ動けるわけではありません。QP ( 量化表現を含む名詞句のことで、「3つのテスト」「全員」などが例です。この論文では、QPの種類によってscrambling後の意味が変わることが重要になります。)
Hommaの提案では、トピックの特徴は名詞句の内部にあり、Dという部分に由来します。そしてDがその特徴を持つときだけ、 を名詞句内の左端の位置([Spec, DP])へ引き上げられます。量化子が[Spec, DP]にあるQPは、その結果トピックの特徴を持てるので、Tに選ばれて[Spec, TP]へ動けます。そうするとOSVになり、主語が否定の下で解釈される(量化子 ( 数や全体性など「どれくらいか」を表す言葉で、「3つ」「全員」などです。否定と一緒に出ると解釈が分かれるため、移動の診断に使われます。) が可能になる)ことが起きます。部分否定 ( 否定が「全体を完全に否定する」のではなく、「全部がそうというわけではない」という意味になる読み方です。この論文では、部分否定が可能かどうかが、目的語が[Spec, TP]へ動いたかの手がかりになります。)
一方、floating quantifierのQPや、修飾語の並びから見て量化子がより低い位置にあるQPは、[Spec, DP]に量化子がないためトピックの特徴を持てず、Tに選ばれません。その場合、主語が[Spec, TP]へ動くしかなく、「全員」が否定より必ず強く効く読みだけが残ります。
意義は2つあります。1つ目は、 とscrambling ( 日本語で、目的語などを文の前の方に出して語順を変える現象です。ただの言い換えではなく、文の構造上の「移動」として扱われます。なぜ重要かというと、語順の違いが意味(特に否定との関係)に影響することがあるからです。) の関係が、名詞句の内部構造に左右されることを示して、より正確な説明にした点です。2つ目は、トピック移動の条件を「文の構造(T側)」だけでなく「名詞句の構造(DP内部)」にも置き、しかもそれはスコープ ( 否定や量化子などが、文の意味にどの範囲まで強く影響するかという関係です。「全員が〜ない」といった文が「誰も〜ない」なのか「全員というわけではない」なのかに関わります。) のような意味だけでは説明できないと示した点です。前提性 ( その名詞句が「すでに話の中にあるものの一部」として理解されやすい性質です。この論文では、トピック性を前提性だけで決める説明では足りないことが議論されます。)
- 今後の展望:
-
この論文は主に
にしぼって議論したため、同じ考え方が量化のない名詞句にもどこまで広げられるかが今後の課題になります。量化のない目的語でも、QP ( 量化表現を含む名詞句のことで、「3つのテスト」「全員」などが例です。この論文では、QPの種類によってscrambling後の意味が変わることが重要になります。) するとscrambling ( 日本語で、目的語などを文の前の方に出して語順を変える現象です。ただの言い換えではなく、文の構造上の「移動」として扱われます。なぜ重要かというと、語順の違いが意味(特に否定との関係)に影響することがあるからです。) が可能になる場合がありますが、それは目的語が不特定ではなく、会話の流れと結びついた「特定のもの(定)」として読めるかどうかに関係しそうだと述べます。たとえば「その/あの」を付けて特定のものにすると、部分否定が読みやすくなります。これは、「部分否定 ( 否定が「全体を完全に否定する」のではなく、「全部がそうというわけではない」という意味になる読み方です。この論文では、部分否定が可能かどうかが、目的語が[Spec, TP]へ動いたかの手がかりになります。) の左端に何かがある」という条件と合いそうだ、という示唆です。DP ( 名詞句を表す統語上の単位で、「その本」「3冊の本」などをまとめて1つのかたまりとして扱います。Dという中心部分を持つ構造だと考えます。)
ただし未解決の点もあります。「試験を」のように見た目では左端に や量化子 ( 数や全体性など「どれくらいか」を表す言葉で、「3つ」「全員」などです。否定と一緒に出ると解釈が分かれるため、移動の診断に使われます。) がない目的語でも、特定の試験として読むと部分否定が可能になることがあります。これに対応するため、Dのトピック特徴は、左端に明示的な要素を必ず動かさなくても、指示詞 ( sonoやanoのように「その〜」「あの〜」と指して特定する言葉です。名詞句を定として読ませやすくし、scrambling後の解釈にも影響します。) や定性 ( 名詞句が「どれのことか決まっている(特定できる)」という性質です。この論文では、定性があると部分否定が可能になりやすい、という観察が今後の議論につながります。) を生み出せるかもしれない、という拡張案が示されます。今後は、同じ前提性 ( その名詞句が「すでに話の中にあるものの一部」として理解されやすい性質です。この論文では、トピック性を前提性だけで決める説明では足りないことが議論されます。) とprobe ( 文の中で「条件に合う相手を探す側」のしくみのことです。相手を見つけると、特徴の一致や移動を起こせると考えます。) の考え方で、量化のない名詞句の定性やトピック性、DP内部の移動がどう関係するのかを明らかにする必要があると述べます。goal ( probeに「見つけられる側」で、条件に合った要素です。この論文では、どのDPやQPがgoalになれるかが中心問題になります。)
- 何のために?:
-
この研究は、日本語の言葉の
並 びを見ます。
日本語は、言葉の順番 が入れ替 わります。
たとえば、 が前に来ることです。目的語 ( 文の中で、動作の対象 になる言葉です。たとえば「りんごを食べる」の「りんご」です。何が前に動いたのかを考えるときに必要 です。)
この入れ替 えを、 と言います。スクランブル ( 文の中で言葉の順番 を入れ替 えることです。たとえば目的語 を前に出すような言い方を指します。日本語の語順 のしくみを調べるうえで大事です。)
Miyagawaさんは、理由をこう考えました。
文には、 をさがす場所があるそうです。話題 ( 文で「いま何について話すか」を示 す中心になる部分です。日本語では話題になると文の前のほうに出やすいので、語順 の入れ替 えと関係 します。)
その場所を、 とT ( 文の中で「話題をさがす場所」として考える、研究上の記号(ラベル)です。どの言葉が前に動けるかを説明 するために使います。) 呼 びます。
が動くと、主語が先になります。主語 ( 文の中で、動作をする人やものを表す言葉です。たとえば「太郎が走る」の「太郎」です。主語が前に出るかどうかで語順 の説明 が変 わります。)
目的語 が動くと、目的語 が先になります。
本当に動くのか、たしかめ方があります。
「 」や「全員 ( みんなを表す言葉で、文の意味の強さ(どこまで当てはまるか)を調べるのに使われます。語順 が変 わったときの読み方の違 いを見分ける手がかりになります。) 」を使って見ます。〜ない ( 否定 を表す言葉です。「全員」などと一緒 に使うと意味の読み方が分かれ、言葉が動いたかどうかの判断 に役立ちます。)
どちらの意味が強いかを比 べます。
でもHommaさんは、心配しました。
このままだと、何でも動けそうです。
そこで、動ける をしらべます。名詞 ( 人やもの、ことの名前を表す言葉です。どの名詞 が文の中で前に動けるかが研究の中心になります。)
とくに、数が入る名詞 に注目します。
たとえば、「3つのテスト」です。
研究の目的 は、3つあります。
1つ目は、動ける形を示 すことです。
2つ目は、動くための条件 を出すことです。
3つ目は、意味だけでは足りぬと示 すことです。
- 何が分かったの?:
-
大事なのは、
を前に出すときです。目的語 ( 文の中で、動作の対象 になる言葉です。たとえば「りんごを食べる」の「りんご」です。何が前に動いたのかを考えるときに必要 です。)
そのとき、「 」と「全員 ( みんなを表す言葉で、文の意味の強さ(どこまで当てはまるか)を調べるのに使われます。語順 が変 わったときの読み方の違 いを見分ける手がかりになります。) 」を見ます。〜ない ( 否定 を表す言葉です。「全員」などと一緒 に使うと意味の読み方が分かれ、言葉が動いたかどうかの判断 に役立ちます。)
読み方が変 わることがあります。
目的語 を前に出すと、こう読めます。
「全員ではない」と読むことがあります。
これを、 と部分否定 ( 「全部が〜ない」ではなく「全部ではない」という意味の否定 です。例 として「全員ではない」の読み方です。目的語 が前に動いたしるしとして重要 です。) 呼 びます。
これは、目的語 が動いたしるしです。
でも、そのしるしは形で変 わります。
「3つのテスト」は、2通りに読めます。
否定 が強い読みも、出ることがあります。
が強い読みも、出ることがあります。主語 ( 文の中で、動作をする人やものを表す言葉です。たとえば「太郎が走る」の「太郎」です。主語が前に出るかどうかで語順 の説明 が変 わります。)
「テストを3つ」は、ちがいます。
数の言葉が、 からはなれます。名詞 ( 人やもの、ことの名前を表す言葉です。どの名詞 が文の中で前に動けるかが研究の中心になります。)
この形だと、読み方は1つになりやすいです。
部分否定の読みは、出にくいです。
さらに、 があると形ようし ( 名詞 を説明 する言葉で、「難 しい」のように名詞 の前につくものです。形ようしと数の言葉の順番 によって、文が動けるかどうかが変 わるため重要 です。) 変 わります。
「難 しい2つの科目」は、出にくいです。
でも「2つの難 しい科目」は大丈夫 です。
ここから、まとめができます。
名詞 のいちばん左に数の言葉がある形だけです。
その形だけが、 にえらばれ動けます。T ( 文の中で「話題をさがす場所」として考える、研究上の記号(ラベル)です。どの言葉が前に動けるかを説明 するために使います。)
また、 っぽさだけが理由ではないです。話題 ( 文で「いま何について話すか」を示 す中心になる部分です。日本語では話題になると文の前のほうに出やすいので、語順 の入れ替 えと関係 します。)
別 の形では、説明 できない例 があるからです。
- どうやったの?:
-
この研究は、文の
自然 さをくらべます。
そして、どう読めるかもくらべます。
文は、少しだけ形を変 えて作ります。
まず、 かSOV ( 主語目的語 動詞 の順番 の型 です。文の形を比 べるための記号です。) かをOSV ( 目的語 主語動詞 の順番 の型 です。目的語 が前に動いた結果 として出やすい形なので、研究で確 かめたい点になります。) 変 えます。
次に、数の言葉の場所を変 えます。
の前か、はなれた所かを名詞 ( 人やもの、ことの名前を表す言葉です。どの名詞 が文の中で前に動けるかが研究の中心になります。) 変 えます。
さらに、 との形ようし ( 名詞 を説明 する言葉で、「難 しい」のように名詞 の前につくものです。形ようしと数の言葉の順番 によって、文が動けるかどうかが変 わるため重要 です。) 順番 も変 えます。
見たい点は、読み方が2つあるかです。
それとも、1つに決まるかです。
その結果 を、文の形の考え方で説明 します。
そして、どの名詞 が動けるかを決めます。
意味だけの考え方とも、くらべます。
- 研究のまとめ:
-
結論 は、 がT ( 文の中で「話題をさがす場所」として考える、研究上の記号(ラベル)です。どの言葉が前に動けるかを説明 するために使います。) をさがす考えは話題 ( 文で「いま何について話すか」を示 す中心になる部分です。日本語では話題になると文の前のほうに出やすいので、語順 の入れ替 えと関係 します。) 残 します。
でも、動ける には名詞 ( 人やもの、ことの名前を表す言葉です。どの名詞 が文の中で前に動けるかが研究の中心になります。) 制限 がいります。
どんな名詞 でも、動けるわけではないです。
Hommaさんは、名詞 の中に大事な部分があると言います。
その部分を、 とD ( 名詞 の中にある「大事な部分」として置 く研究上の記号(ラベル)です。Dが話題のしるしを持つときに、名詞 が前に動けると説明 するために使います。) 呼 びます。
Dが話題のしるしを持つときがあります。
そのとき、数の言葉が左はしに来ます。
左はしに来た形は、話題になれます。
だからTにえらばれ、前に動けます。
その結果 、 になりやすいです。OSV ( 目的語 主語動詞 の順番 の型 です。目的語 が前に動いた結果 として出やすい形なので、研究で確 かめたい点になります。)
そして が、出ることがあります。部分否定 ( 「全部が〜ない」ではなく「全部ではない」という意味の否定 です。例 として「全員ではない」の読み方です。目的語 が前に動いたしるしとして重要 です。)
でも別 の形では、話題になれません。
数の言葉がはなれた形などです。
そのときは、 は動けません。目的語 ( 文の中で、動作の対象 になる言葉です。たとえば「りんごを食べる」の「りんご」です。何が前に動いたのかを考えるときに必要 です。)
だから「 」が強い読みだけになりやすいです。全員 ( みんなを表す言葉で、文の意味の強さ(どこまで当てはまるか)を調べるのに使われます。語順 が変 わったときの読み方の違 いを見分ける手がかりになります。)
意義 は2つあります。
1つ目は、名詞 の中の形が大事と示 した点です。
2つ目は、意味だけでは足りぬと示 した点です。
- これからどうする?:
-
この研究は、数がある
を中心に見ました。名詞 ( 人やもの、ことの名前を表す言葉です。どの名詞 が文の中で前に動けるかが研究の中心になります。)
だから、数のない名詞 でも同じかが課題 です。
数のない でも、入れ目的語 ( 文の中で、動作の対象 になる言葉です。たとえば「りんごを食べる」の「りんご」です。何が前に動いたのかを考えるときに必要 です。) 替 えで変 わることがあります。
そのときは、「 」かが特定 のもの( 話している人が「どれか決まったもの」を指している状態 のことです。「その」「あの」などで示 され、語順 の入れ替 えと関係 する可能性 があるため重要 です。) 関係 しそうです。
たとえば「その」「あの」を付 けると変 わります。
これは、左はしの条件 と合いそうです。
でも、まだ分からない点もあります。
見た目で左はしに何もなくても変 わる例 があります。
だから、 のしるしはD ( 名詞 の中にある「大事な部分」として置 く研究上の記号(ラベル)です。Dが話題のしるしを持つときに、名詞 が前に動けると説明 するために使います。) 別 の出方もあるかもしれません。
これから、くわしくしらべる必要 があります。
- 著者名:
- Honma Shinsuke
- 掲載誌名:
- 言語の普遍性と個別性
- 巻:
- 5
- ページ:
- 33 - 49
- 発行日:
- 2014-03
- 新潟大学学術リポジトリリンク:
- http://hdl.handle.net/10191/27099
