協同学習を通して「誰に聞いても大丈夫」を実現する理科授業の開発

平成29年告示の小中学校学習指導要領において「主体的・対話的で深い学び」の実現が強調され、特に「対話的な学び」では子ども同士の協議を通じて自己の考えを広げ深めることの重要性が明示された。さらに、新型コロナウイルス感染症対策の影響で、子ども同士の学び合いの機会を確保することの重要性がさらに認識された。しかし、現場では「対話的な学び」の具体的な実現方法について模索が続いている。理科授業においては、従来からグループでの話し合いが広く取り入れられており、「対話的な学び」の実現が期待される。本研究では、ジョンソン兄弟らの協同学習の理論に基づき、小中学校の理科授業において「対話的な学び」を実現するための具体的な方略を明らかにすることを目的としている。

現場の教師のインタビュー調査から、協同学習の意義は認識されているものの、個人の学習を優先する傾向が強いことが明らかになった。特に、時間の制約や内容量の多さから、協同学習を取り入れることが難しいという現実が浮き彫りになった。また、模擬授業の実践から、主体的な取り組み、協同を意識化させる目標設定、概念構築を助ける教材、話し合いを活発化させる道具という４つの指導方略が協同学習を実現するために有効であることが示された。

本研究では、まず理科教諭に対する半構造化インタビューを実施し、協同学習についての現場の認識を把握した。その後、理科教員を志望する学生が協同学習を実現するための模擬授業を開発・実践し、そのピア評価コメントを質的に分析した。データ分析にはKHCoderを用い、頻出語の共起ネットワークを作成することで、協同学習の実現に向けた具体的な方略を特定した。

本研究の結論として、理科授業において協同学習を実現するためには、児童生徒の主体的な取り組み、協同を意識化させる目標設定、概念構築を助ける教材、話し合いを活発化させる道具という４つの指導方略が有効であることが確認された。これにより、グループ活動をただ行うだけではなく、深い概念構築を促す本質的な協同学習が可能になる。本研究の意義は、理科授業における協同学習を具体的に実現するための手引きを提供し、教師が効果的な授業改善を行うための基盤を築く点にある。

本研究は、教師1名のインタビューと学生による模擬授業を基にしており、データ収集が十分ではないため、今後はさらに多くの現場教師や実際の小中学校授業におけるデータを収集し、協同学習の有効性を検証することが求められる。また、協同学習の実現によって児童生徒の学びがどのように深まるかを具体的に調査することも重要である。さらに、理科教育の目標である全員の概念構築を実現するために、協同学習がどのように寄与するかについての研究を進めていきたいと考えられる。