J.W.ウォーターハウスのオフィーリア作品における生への賛美 : 《オフィーリア》三部作を中心に

本論文は、シェイクスピアの戯曲『ハムレット』に登場するオフィーリアの死の場面を題材にした19世紀イギリスの画家ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの《オフィーリア》三部作を分析することを目的としています。ウォーターハウスは、多様な物語画を制作したことでも知られていますが、その中でもオフィーリアを三度にわたり描いたことは注目に値します。オフィーリアは『ハムレット』の中で川に落ちて溺死したと語られますが、ウォーターハウスは彼女の死の場面をどのように描き、またその描写にどのような思想が込められているのかを明らかにするために、本稿では詳細な図像分析を行います。

ウォーターハウスの《オフィーリア》三部作は、他の同時代の画家たちが描いたオフィーリア作品とは異なり、すべてオフィーリアが生きている姿を描いています。また、彼の作品ではオフィーリアは水辺にいるものの、最終的には水を克服する存在として描かれています。さらに、ウォーターハウスのオフィーリアは視線を通して観者と対話し、その存在感を強く示しています。その結果、ウォーターハウスのオフィーリアは単なる受動的な悲劇のヒロインではなく、意志を持ち、動的である人間として表現されています。これにより、ウォーターハウスはオフィーリアを通して人間の生を賛美していたことが明らかになりました。

本論文では、19世紀から20世紀初頭にかけてイギリスやフランスで描かれたオフィーリア図像26点を数的分析し、オフィーリアの死の場面が好まれたこと、特にイギリスでは水辺のオフィーリア図像が多いことを確認しました。そのうえで、ウォーターハウスの《オフィーリア》三部作において、水との関わり、オフィーリアの視線の点からそれぞれ分析を行いました。これにより、ウォーターハウスの独自の表現と人間の生の賛美の思想が作品に表れていることが明らかになりました。

ウォーターハウスの《オフィーリア》三部作は、他の同時代の画家たちが描いたオフィーリア作品とは異なり、オフィーリアが水を克服する姿を描いています。彼の作品では、オフィーリアの視線が観者と交差し、その存在を強く示しています。このように、ウォーターハウスはオフィーリアを単なる悲劇のヒロインとして描くのではなく、意志を持ち、動的である人間として表現していました。その結果、ウォーターハウスの描くオフィーリアは、観者と視線を交わし合う主体と主体の関係に引き上げられ、その存在感と意志が強調されています。これにより、ウォーターハウスはオフィーリアを通して人間の生を賛美していたといえるでしょう。

ウォーターハウスが描いた他の物語主題、特に『シャロットの姫』や『デカメロン』、そして最も多く取り上げたギリシャ神話主題についても、同様に人間観や人生観という視点から検討する必要があります。彼の物語画にどのような思想が込められているのかを明らかにすることは、ウォーターハウスの作品全体に対する理解を深めるために重要です。今後の研究では、ウォーターハウスの描く女性像や人間像をさらに多角的に分析し、彼の作品における思想の継続性や変遷についても検討していく予定です。