A群レンサ球菌の産生するCAMP factorはRAW264.7細胞の貪食能を低下させる

A群レンサ球菌Streptococcus pyogenesは、小児に多発する咽頭炎の起因菌として広く知られています。この菌は宿主免疫細胞の機能を低下させる、もしくは組織への侵入および組織内増殖をサポートする病原因子を産生することで感染を拡大させると考えられています。特に、S. pyogenesが産生するCAMP factorは黄色ブドウ球菌のβ-hemolysinによる溶血作用を増強することが報告されていますが、免疫細胞に対する具体的な作用はまだ解明されていません。そこで本研究は、マクロファージ系細胞に対するCAMP factorの影響を解析することを目的としました。

本研究の結果、CAMP factorが全てのS. pyogenes菌株において発現し、Ca2+、Mg2+、5% CO2の存在下ではその発現がさらに上昇することが確認されました。さらに、rCAMP factorを作用させたRAW264.7細胞では細胞質で空胞形成が観察され、この空胞形成はrCAMP factorの加熱や抗CAMP factor抗体による中和で抑制されました。また、rCAMP factor がRAW細胞に対して細胞死を惹起しない一方で、細胞増殖を抑制し、細胞周期をG2期で停止させることが示されました。さらに、空胞形成した細胞では貪食能が大幅に低下し、S. pyogenesの付着・侵入割合も低下することが確認されました。

実験は以下の手法で行われました。まず、S. pyogenesの複数の菌株を培養し、それらのCAMP factorの発現量を特異抗体を用いて解析しました。次に、マウスマクロファージ様RAW264.7細胞に対して組換えCAMP factor（rCAMP factor）を作用させ、その影響を顕微鏡観察しました。さらに、rCAMP factorがRAW細胞に与える細胞傷害性をpropidium iodide染色、乳酸デヒドロゲナーゼ量測定、MTT assayによって評価しました。最後に、CAMP factorの影響を受けたRAW細胞の細胞周期や貪食能を解析しました。

研究の結果、Ca2+、Mg2+、5% CO2存在下でS. pyogenesのCAMP factorの発現が上昇することが示されました。これにより、菌が組織に侵入する際にCAMP factorの発現が増加し、感染拡大を助長する可能性が示唆されました。また、CAMP factorが空胞形成毒素として機能し、細胞死を誘導することなくマクロファージの貪食能を低下させることが明らかになりました。これにより、S. pyogenesが宿主の自然免疫から逃れて感染を拡大させるメカニズムの一端が解明されました。

今後の研究では、CAMP factorが具体的にどのような分子メカニズムでマクロファージの機能を低下させるのかについてさらに詳細に解析する必要があります。また、CAMP factorの他の病原菌に対する影響についても調査を進めることで、より広範な理解が期待されます。さらに、CAMP factorをターゲットとした治療法やワクチン開発の可能性についても検討が望まれます。これにより、A群レンサ球菌感染症の予防や治療が大幅に改善されることが期待されます。

A群レンサ球菌(子どもに多い喉の炎症の原因となる菌で,Streptococcus pyogenesとも呼ばれます。)（Streptococcus pyogenes）は、子どもたちによく見られる喉の炎症（咽頭炎(喉の痛みや腫れを伴う炎症のことです。)）の原因となる菌です。この菌は体の免疫細胞の働きを弱めたり、体の中に入り込んで増えたりすることができます。特に、この菌が作り出すCAMP因子(A群レンサ球菌が作り出す物質で,他の菌が持つ溶血素の働きを強めます。)という物質は、黄色ブドウ球菌が持つβ-溶血素の働きを強めることが報告されていますが、免疫細胞に対する詳しい影響はまだわかっていません。そこでこの研究では、CAMP因子がマクロファージ(体内の異物を食べて取り除く,免疫系の細胞です。)（体を守る免疫細胞の一種）にどんな影響を与えるのかを調べました。

研究の結果、CAMP因子(A群レンサ球菌が作り出す物質で,他の菌が持つ溶血素の働きを強めます。)はすべてのA群レンサ球菌(子どもに多い喉の炎症の原因となる菌で,Streptococcus pyogenesとも呼ばれます。)の菌株で作られており、カルシウム（Ca2+）、マグネシウム（Mg2+）、5%の二酸化炭素（CO2）があると、その量がさらに増えることがわかりました。また、CAMP因子を加えたRAW264.7細胞では細胞内に空胞(細胞内にできる小さな袋状の構造です。)（小さな袋のような構造）ができ、この空胞はCAMP因子を熱処理したり、抗体で中和したりするとできなくなりました。さらに、CAMP因子は細胞の死を引き起こさないものの、細胞の増殖を抑え、細胞の成長サイクルをG2期(細胞が分裂する前の成長段階の一つです。)で止めることがわかりました。空胞ができた細胞では、体を守るための貪食能(マクロファージが異物を食べて取り除く能力のことです。)が大きく下がり、A群レンサ球菌が体に入り込むのも減ることが確認されました。

実験では、まず複数のA群レンサ球菌(子どもに多い喉の炎症の原因となる菌で,Streptococcus pyogenesとも呼ばれます。)の菌株を育てて、それぞれのCAMP因子(A群レンサ球菌が作り出す物質で,他の菌が持つ溶血素の働きを強めます。)の量を特定の抗体を使って調べました。その後、マウスマクロファージ(体内の異物を食べて取り除く,免疫系の細胞です。)のRAW264.7細胞に組換えCAMP因子（rCAMP因子）を加えて、その影響を顕微鏡で観察しました。さらに、rCAMP因子が細胞にどんなダメージを与えるかを、プロピジウム・ヨージド染色法、乳酸デヒドロゲナーゼ量測定、MTTアッセイを使って評価しました。最後に、CAMP因子を加えた細胞の成長サイクルや貪食能(マクロファージが異物を食べて取り除く能力のことです。)を解析しました。

研究の結果、カルシウム、マグネシウム、5%の二酸化炭素があるときにA群レンサ球菌(子どもに多い喉の炎症の原因となる菌で,Streptococcus pyogenesとも呼ばれます。)のCAMP因子(A群レンサ球菌が作り出す物質で,他の菌が持つ溶血素の働きを強めます。)の量が増えることがわかりました。これにより、菌が体の中に入るときにCAMP因子が増え、感染が広がる可能性が示されました。また、CAMP因子は細胞の死を引き起こさずに空胞(細胞内にできる小さな袋状の構造です。)を作り、マクロファージ(体内の異物を食べて取り除く,免疫系の細胞です。)の貪食能(マクロファージが異物を食べて取り除く能力のことです。)を低下させることがわかりました。これにより、A群レンサ球菌が体の自然免疫から逃れて感染を広げる仕組みの一部が解明されました。

今後の研究では、CAMP因子(A群レンサ球菌が作り出す物質で,他の菌が持つ溶血素の働きを強めます。)が具体的にどのようにしてマクロファージ(体内の異物を食べて取り除く,免疫系の細胞です。)の働きを妨げるのかをさらに詳しく調べる必要があります。また、CAMP因子が他の病原菌に対してどんな影響を与えるのかも研究することで、より広い理解が期待されます。さらに、CAMP因子を標的とした治療法やワクチンの開発も検討されるべきです。これにより、A群レンサ球菌(子どもに多い喉の炎症の原因となる菌で,Streptococcus pyogenesとも呼ばれます。)による感染症の予防や治療が大幅に改善されることが期待されます。